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デジタルツインで未来を予測する取り組みが加速、DXがもたらす成果の本命へ

2022年09月13日更新

現実の世界と全く同じものをコンピュータの中に再現する技術は、コンピュータの最も得意とすることの1つとして認識されています。最近では建物や設備をそっくりコンピュータ上に再現する「デジタルツイン」(デジタルの双子)を、産業の現場に生かそうという動きが始まり話題になってきています。

いったい、デジタルツインとはどのようなもので、どう生かしていくべきものなのでしょうか。この記事では、デジタルツインの意味をはじめ、そのメリットや注目される理由、事例、それを支える技術などを紹介し、デジタルツインをめぐる将来を予想します。

 デジタルツインとはなにか

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実の世界のデータを用いてコンピュータの中に双子のように同じものを再現する技術のことを言います。収集された膨大なデータを基に「徹底的な現実の複製」をすることによって、限りなく現実に近い物理的シミュレーションを可能にします。

これによって、例えば製造業の現場においては、デジタルツインで作業工程やラインの作り方を改善してみる試行錯誤を繰り返して最適解を得ることができるため、開発にかかる時間とコストの削減が可能となります。

IoTの活用が進んでいますのでデータをリアルタイムに取り入れることもできます。出荷後の製品が、ある割合で故障する可能性があった場合など、デジタルツイン上で事前に確認をして故障予知をし、故障する前にアラートを出すこともできるのです。

 デジタルツインのメリット

デジタルツインのメリットを大きく分類すると次の3つがあります。

リアルタイムの現状把握と予測

デジタルツインで工場そのものをそっくり再現して、まったく同じように稼働させることで、場所と時間に関係なく工場が現在どのような状態で稼働しているかを確認できます。起こりそうなトラブルや、空き時間が出てきそうなラインが分かるため、素早く対策を講じられるようになります。また、製造設備の故障でラインがストップする前に手を打てるようになりますので、稼働率は向上します。

試行錯誤を可能にする

現実の工場では物理的、時間的に無理なことであっても、デジタルツインなら可能ということとは多いです。例えば、航空機エンジンにおいて、無理な負荷をかけるような試験を何度も実施したいといった用途が考えられます。

さまざまなものづくりにおいて、「この部品を変えたらどうなるか」「ラインの位置を変えれば能率が上がるのではないか」「新しい原料の投入でどのような影響があるか」といったシミュレーションができるのです。

コンピュータ上でうまくいかなかった場合でも、うまくいく方法を考えてやり直すこともできます。試験に成功し、最適な方法を確認するまで、費用のリスクなく繰り返し試せることは大きなメリットと言えます。

管理・メンテナンスにかかるコストの削減

工場が遠方にある場合においてもデジタルツインで再現できていれば、ある程度の状況を把握できるため、出張旅費などを減らせます。現地を訪れないとできないことだとしても、事前にさまざまな情報をデジタルツイン上で把握しておければ、作業時間を短縮できます。管理やメンテナンスにかかる時間をいかに小さくしていくかが、今後の競争力をつける要因になるため、その意味でも利点があります。

 デジタルツインが注目される理由

デジタルツインが注目されるその背景には「生産性の向上」を推進しないといけない日本経済の事情があります。国際的に競争力が弱まっている日本は、今後少子高齢化でますます労働人口が減っていきます。世界的なビジネス環境の激しい変化に対応するためには、データとデジタル技術を活用して、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する必要に迫られているのです。

このため、民間も政府もDXの重要性を強調しており、AIやIoTが発達したことによるデータ活用は、DXの中心的な役割を担うようになってきました。デジタルツインはデータ活用の1つの形態と言えます。精度とリアルタイム性のあるデータが容易に収集できるようになった今、従来できなかったことが可能になっています。

デジタルツインによって生産性向上、働き方改革、競争力向上を図れるのであれば、企業が興味を持つのもうなずけます。

 デジタルツインの事例

デジタルツインは製造業を中心に導入が進んでいますが、それ以外の業界でも活用されている事例があります。3つ紹介します。

医療への応用

医療用エックス線機器などで定評のあるコニカミノルタは、内視鏡による脊椎の切削手術をコンピュータ上で再現できるデジタルツインアプリケーションを提供しています。これは、CT(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(核磁気共鳴画像装置)で取得した患者の患部データの3Dデータを用いあらかじめ現実の患者と同じ体内モデルで手術のシミュレーションを行えるものです。

内視鏡による手術は見える範囲が小さく、熟練が必要なため手術前に見える範囲を3Dで知りたいというニーズがあったといいます。

火災時の避難を再現

大手建設会社である鹿島建設は、実際の建物のデータと熱・煙に関する時系列データに基づいて避難シミュレーションをする装置を開発しました。ヘッドマウントディスプレーで実際の見え方を体感できます。

これによって、まだ設計段階の建物の中で「擬似的な火災」を発生させて、火の回りに合わせて中の人間がきちんと避難できるつくりになっているかどうかをチェックできます。

ホロラボ

鹿島建設の取り組み(画像出典:ホロラボの発表資料

ベテラン技術者がどこにいても支援

旭化成では、水素製造プラントのデジタルツインを構築しました。プラント内の生産設備に取り付けたセンサーからのデータを収集、異常があればメールと3Dマップに表示する仕組みです。

化学工場では、製品ごとにベテラン技術者が必要になるといいます。万一、設備に異常事態が発生したときにはベテラン技術者の指示を仰ぐ必要があります。いつも現場にいるわけではないベテラン技術者が、離れた場所からでも現場の状況をリアルタイムに知ることができれば安全性や時間の短縮につながります。

また、ベテラン技術者の働き方改革にもつながるので一石二鳥です。

旭化成における「デジタル×共創」 によるビジネス変革

(旭化成が構築したプロセス設備のデジタツイン|画像出典:旭化成における「デジタル×共創」 によるビジネス変革

デジタルツインの技術を支えるもの

さて、ではデジタルツインはどのような技術を基にできているのでしょう。いくつか挙げてみます。

IoT

IoT(Internet of Things)は、モノのインターネットと呼ばれるように、家電や計測機器などいろいろなモノがインターネットとつながり、そこから収集されるデータを活用できるようにする取り組みを指します。デジタルツインの実現には無数の細かいデータが必要になるため、IoTは不可欠の技術です。

ディープラーニング

AIの1つと分類されることの多いディープラーニングは、あらかじめ学習させたモデルから事象を判断し、自ら学習することで、シミュレーションをより現実に近いものにできます。デジタルツインに必要な実際に起きそうな事象を再現するための技術です。

AR・VR

AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)も欠かせない技術です。デジタルツインの世界を立体的に確認できるということは、テキストや動画をもってしてもわからないことを確認できることを意味します。

5G

次世代の高速通信規格である5Gも必要不可欠なものになっていくでしょう。デジタルツインの機能を必要十分に生かすためには、大量のデータを光速で転送する技術が必要になってきます。

特に、医療など人の生命に直結する場面でデジタルツインを使うのであれば、速度と信頼性は絶対条件になってきます。

デジタルツインの将来は

現在のデジタルツインは、1つの工場のラインなど限られた範囲を再現しようとするものがほとんどです。しかし、その適用範囲はだんだんと広がってきそうな雰囲気があります。

現に、シンガポールなどでは国家そのものをデジタルツインで再現しようとしており、その作業は「完了した」と発表されています。このデジタルツインを使って、環境問題、エネルギー問題、交通問題など国家レベルの課題に対応する予定だといいます。このような動きは、今後も加速すると考えられます。

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鬼尾宗慶
ITをはじめとする、各種ビジネス分野のライター。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。
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