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政府のデジタル予算が過去最大規模に、国のかじ取りを検証する

2022年10月18日更新

2022年2月22日、一般会計の総額107兆5964億円となる令和4年度予算案が衆議院を通過。3月22日に正式に可決しました。予算案が通過した速さとしては戦後2番目に早かったそうです。

ご存じの通り、政府はデジタル改革に力を入れており、本年度の予算でも重点方針になっています。コロナ禍で顕在化した日本におけるデジタル化の遅れに対応するため、2021年9月に発足したデジタル庁は、2022年度から本格的に稼働するはずですが、現状はどうなのでしょうか。

この記事では、日本のデジタル政策と今回の予算の中身を振り返り、果たして、メディアに「デジタル敗戦」と形容されたデジタル技術活用の遅れを挽回できるのかについて検証します。

国のデジタル改革政策をまとめると

デジタル庁の新設は、菅政権(2020年9月16日~2021年10月4日)の時に決定されたことです。菅前首相は総裁選の公約にデジタル庁の創設を掲げていました。菅内閣の目玉政策の1つだったわけです。

それ以前も内閣官房や総務省をはじめとする各省庁でデジタル化政策は進んでいましたが、省庁ごとに別々に行っており、横の連携が取れていませんでした。政府としての一元的なデジタル化という形がとれていなかったのです。そしてその欠点は新型コロナウイルスの感染拡大で露呈することとなりました。

給付金の給付遅れや行政手続きの煩雑さで国民の多くから不満がでます。そして、これらの原因として各省庁の保有するデータの連携が考えられていないことが問題点として挙げられました。

この縦割り行政を解消するために、司令塔的な立場でデジタル化を推進する機関をつくることになって設立されたのがデジタル庁です。

想定される国民のメリットとしては、ワクチン予約から接種記録、医療機関への支払いが容易になることや、マイナンバーと銀行口座が連携することによって、給付金や助成金などをスピーディーに給付できるようになることが挙げられます。

デジタル改革の掛け声が高いもう1つの要因に上げられるのが「諸外国に対する遅れ」です。デジタル敗戦とまで形容される背景には、わずか20数年の間に世界経済に大きな影響力を振るうまでに急成長したGAFAのような産業を育てられなかったこと、デジタル人材の育成で、日本はドイツの10年遅れ、米国に20年遅れなどといわれていることが挙げられます。

「一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」というのがデジタル改革関連法の目標とするところですが、2022年度予算にそれがどのように表れているのか見てみたいと思います。

今回の予算の重点

本年度予算のうち、デジタル関連の予算の合計は、総額1兆2798億5500万円です。近年のデジタル関連予算と比べて2000億円以上増加しており、デジタル改革に向けた国の意気込みが感じられる予算となっています。どのような用途に予算が振り分けられたのか見てみましょう。

デジタル田園都市構想

デジタル田園都市国家構想

デジタル田園都市国家構想のイメージ(資料はデジタル庁「デジタル田園都市国家が目指す将来像について」から)

岸田首相は「デジタル田園都市国家構想実現会議」を2021年11月に開催、4月までに7回開催しています。「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていく」とし、「デジタル実装を通じた地方活性化を推進」するためだとしています。

12月の同会議で提出されたデジタル庁の大臣である牧島かれん氏の資料によれば、デジタル田園都市国家構想の成功には、以下のような取り組みが必要であることを述べています。
― デジタルの力で、「暮らし」「産業」「社会」を変革し、地域を全国や世界と有機的につなげていく取り組み

― 国が整備するデジタル基盤の上に、共助の力を引き出し、各地域で全体最適を目指したエコシステムを構築する

― 常時発展・改革していくためにも、知の中核として大学を巻き込み、関係者全員でEBPMを実践することが必要。

「地方創生」、「少子高齢化社会への対応」にも関係する、国の未来として今後取り組むべき都市構築の姿であるといえるでしょう。

デジタル人材育成

デジタル庁は、社会のそれぞれの立場で求められる人材の確保・育成を図ることにより、目指すべきデジタル社会の着実な実現を図るとしており、そのための助成金等の予算が計上されています。

厚生労働省の助成金である「人材開発支援助成金」は従業員に研修を実施する費用を助成するものですが、デジタル人材育成に関する要件が新たに追加されます。また、厚労省が運営する公的職業訓練(ハロートレーニング)では、IT分野の職業訓練枠を増やすこととしています。

デジタル人材育成は日本が諸外国に後れを取っている分野であり、特に力を入れるべきところだといえるでしょう。

マイナンバー普及

マイナンバーカードの普及は、デジタル庁の担当になります。行政手続き等における特定の個人を識別するための仕組みとして設けられたマイナンバーカードの普及率は、日本全体で43.3%(2022年5月8日現在)にとどまっており、行政手続きのデジタル化のためには、加速度的な普及が求められています。

今回の予算で、マイナンバーカードの交付や申請の促進に1064億5000万円が投じられることになっています。これらの予算は、主に地方自治体などで構築されたシステム関連の費用です。政府の目標ではマイナンバーカードは2023年3月までに「ほぼすべての住民に交付する」こととなっており、そのために必要な予算は本年度までで終わりとなっています。普及に向けての最後の年となる本年度、残りの60%足らずにどう普及させるのか注目されます。

また、デジタル庁は2022年5月13日に「利用者目線の行政サービス実現に向けた トータルデザインとマイナンバー法の検討について」というレポートを公開しました。国・地方公共団体・民間を通じたトータルデザインとして、品質・コスト・スピードを兼ね備えた行政サービスに向けたアーキテクチャ設計の在り方を、根本から見直すとしています。

具体的なイメージとして「スマートフォンで60 秒で手続きが完結」「7日間で行政サービスを立ち上げられる」「民間並みのコスト」を提示。さらに、データの分散管理やセキュリティ、個人情報保護、災害などに対する強靱(きょうじん)性を確保することも含め、国・地方公共団体・民間を通じたアーキテクチャの将来像を整理するといいます。令和7年(2025 年)を当面の実装ターゲットとして検討しています。

さらに「行政サービスの将来像の検討に当たっては、利用者目線を徹底する必要がある」と強調しました。

トータルデザイン実現に向けた各主体の役割

トータルデザイン実現に向けた各主体の役割(デジタル庁:「利用者目線の行政サービス実現に向けた トータルデザインとマイナンバー法の検討 について」から)

デジタル化・日本の課題

首相官邸が示した資料の中で、日本が抱えるデジタル化の課題解決には、「多様な人材を集め、従来の役所とは一線を画した次のデジタル社会をリードする強い組織を立ち上げることが必要」としており、これがデジタル庁の発足の動機になっています。

この資料では、米・英・シンガポール・エストニアとの比較がされており、どの国も政府全体の開発標準ルールに基づいたデジタルサービス組織をもち、各省庁に対してサービスの提供や支援を行っています。

これまで、日本の行政にこれら諸外国のような組織がなかったことや、日本の大部分を占めている中小企業もデジタル化に疎く、人材育成も行われてこなかった現状を変えなくてはなりません。果てしなく困難で遠い目標達成に向け、努力は始まったばかりです。

今回の予算で課題は解決するか

コロナ禍で行政のデジタル化が遅れていることが明らかになりました。これを受けて発足したデジタル庁の活躍がこれから期待されるわけですが、そのデジタル庁では、事務方トップの石原洋子デジタル監が辞職したり、その他の民間から起用した職員が離職する事態になっていたりという報道も目にします。

政治に左右され、予算にしばられ、会議の準備に追われ、厳格な報告や根回しが求められる官僚の仕事の流儀に苦言を呈する人も出てきているようです。膨大な予算を預かって、効果的な仕事を遂行できるのかが今後さらにデジタル庁に問われそうです。

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鬼尾宗慶
ITをはじめとする、各種ビジネス分野のライター。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。
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