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データとAIによる「ダブルハーベスト戦略」、競争優位性のある新規事業のつくり方

2022年06月02日更新

DATAFLUCTは、データに基づいたビジネスモデルの変革方法について学ぶオンラインイベント「Data Cross Conference(データクロスカンファレンス)」を2022年2月9、10日の2日間にわたり開催しました。

その中から、AIとデータ活用に関する書籍『ダブルハーベスト』や『トランスフォーメーション思考』などの著者で、株式会社シナモンの執行役員でフューチャリストの堀田創氏と、DATAFLUCT代表の久米村とのトークセッションを紹介します。

株式会社シナモン 執行役員/フューチャリストの堀田創氏、株式会社DATAFLUCT 代表の久米村

株式会社シナモン 執行役員/フューチャリストの堀田創氏(左)、株式会社DATAFLUCT 代表の久米村(右)

このセッションの見どころは、DX戦略のフレームワーク「ダブルハーベスト」とは何かを解説した上で、DATAFLUCTのデータ新規事業の作り方とハーベストループ、ダブルハーベストの事例から読み解く成長エンジンの作り方の考察です。

堀田氏は「せっかく優れた技術があるのに使い方が限定的である事例が多く、違和感やもったいなさがあります。AIを使ってデータ活用する戦略をいかにデザインしていくかについてお話しします」と切り出しました。

DX戦略のフレームワーク「ダブルハーベスト」とは

ダブルハーベストを一言で説明すると、収穫(ハーベスト)が次の収穫につながるというループサイクルを構築することです。「DX戦略においては、データを活用するデータ戦略が必要」と堀田氏は語ります。

データ戦略とは

データ戦略とは、データが明確に自社の強みになっている状態を作ることです。そのためには、データが貯まる仕組みを作る必要があるでしょう。基本的には、「ビジネスを進める」「データが集まる」「自社が強くなる」「さらにビジネスの幅が広がる」というサイクルが望ましいです。

「このようにデータを活用できれば、ビジネスの規模は10倍、100倍と大きくなっていく」と堀田氏。この戦略をバックエンドで用意した上でビジネスを進めることがポイントになってきます。

また、ビジネスを始める際に「データがあるから勝てる」内容のビジネスであるとあらかじめ確認しておくことも重要です。それがハーベストループの基本的な考え方です。

「データがあるから勝てる」というビジネスであることを確認することがハーベストループの要点

「データがあるから勝てる」というビジネスであることを確認することがハーベストループの要点

例えば、AIを利用してコストを削減するという当初の目的があった場合、それをさらに進めて、成長戦略に上方シフトできるかどうかで、大きな際が後に生まれます。

「AIを活用する事例でも、戦略がない場合は単純なコスト削減だけで終わってしまうことがあります。ただデータを利用するだけに留まり、ループが回っていなければ成長には限界がきてしまいます」(堀田氏)

一方で、データを戦略化し、AIを活用することで精度を上げて、他社が追いつけない仕組みを作ることもできます。AmazonがECサイトとして知名度を向上させる傍らで、巨大な物流システムへの投資を続け、それがAWSになったことが知られています。

運転支援システム開発「モービルアイ」の事例

運転事故防止用の画像分析のAIを活用しているモービルアイの事例を取り上げた堀田氏は「AIとAPIを利用した自動車を製造・販売した方が、市場をスピーディーに取りやすいでしょう。しかし、AIはデータありきで効果が出るものなので、データ戦略を練り、データを活用することでインパクトは大きくなります」と話します。

ここからは、このモービルアイのダブルハーベストループを紹介します。

ダブルハーベストループ

「モービルアイ」のダブルハーベストループ1

ダブルハーベストループの第一段階は、データの蓄積によるAIの強化で、持続的な競争優位性を獲得することです。モービルアイの例では、画像解析の精度を高めるために車載カメラのデータを活用する仕組みを作ることで、データを蓄積できるでしょう。データ量の増加により、運転体験の品質が高まります。

「モービルアイ」のダブルハーベストループ2

車載カメラ以外のデータを活用し、さらに強力かつ持続的な競争優位性を獲得します。位置情報などの地理的データや、ブレーキなどのセンサー情報(データ)を収集することでさらにループが回り、精度はどんどん高まっていきます。

この2つのループを作ることで、データを活用した良い事業の仕組みを構築できるでしょう。

データを成長戦略化するための3条件

データが成長戦略化するための条件には、大きく分けて「最終価値」「競争優位」「ハーベストループ」の3つがあります。この3つをそろえることで、良い新規事業を構築できるといいます。

  1. 最終価値
    AIを使うメリットが存在しているかどうかが重要です。また、そもそもデータ自体にメリット・価値があるかどうかの確認も大事です。
  2. 競争優位
    データの価値がUVPへ転換できるかどうかが競争優位性につながります。UVPとは「Unique Value Proposition」の略で、ユニークな価値・他社に勝てる価値のことです。
  3. ハーベストループ
    データを成長戦略化するためには、データを用いたUVPを持続的に強化することが大切です。ループを構築することが、価値のさらなる強化につながります。

データを成長戦略化するための3条件

顧客への価値提供が目的

ビジネスにおいて重要なものは「他社にない価値」であり、顧客から選ばれる理由になる「UVP」です。つまり、UVPを自社の強みにするためにその考えを突き詰めることが大切です。

UVPが確立された状態では独自性が強化され、他の追随を許さない状態を構築できます。その実現にはハーベストループの構築が大切です。しかし、そこで注意したいのはハーベストループではなく「改善ループ」に陥ってしまうことです。

「課題をひとつひとつ改善していく改善ループはビジネスにとって重要に思われがちですが、安定するものの成長が止まってしまうデメリットがあります」(堀田氏)

どのように自分たちが勝てる領域を作るか?

UVPはユニークな要素です。例えば「無敵のデータプラットフォームを作ろう」と考えたとしても、既にGoogleが取り組んでいるのでユニークにはなり得ません。

「大小はあるものの、Googleが扱っていない価値の中にもユニークなものはたくさんあります。ここで陶磁器を例に挙げて考えてみましょう。Googleは陶磁器を作る職人のノウハウを収集していないため、それをIoTを通じて集めればユニークな価値になり得るでしょう。一般化したUVPだとGAFA〔Google、Amazon、Facebook(現・Meta)、Apple〕)に負けてしまうため、特定のUVPを磨くことが大切です」(堀田氏)

世界観を作る

陶磁器には数千年の歴史の中で育まれた意味があり、この意味はGoogleには作れません。だからこそ陶磁器に特化することにユニークさがあり、そのユニークさがいかにユーザーに辿り着くかどうかを考えた時にデータ戦略が生まれます。ユニークさは「世界観」に集約されるのです。

例えば、Appleは「ハードウェアの良さ」ではなく「Appleのミニマリズムの世界観」が差別化要素になっています。、GoogleのAndroidはそれには勝てません。

成長に繋がるまでの間はどのように耐え忍べばよいか?

ビジネスが成長につながるまでの期間は、データを貯めておくことが大切です。例えば、リモートの英会話教室を運営する場合、講師の表情や心理データを貯めておけば、その段階でAIがなくても収穫(データ活用)はあるのでハーベストループは生まれます。
データを活用するのは将来的でも良いので、活用できる材料を集めることの方が優先されます。

企画担当者は何から始めればよいか?

「まずは、MTP(Massive Transformative Purpose)を実施しましょう」と堀田氏は提案します。MTPとは「20年後の世界観をしっかり作る」作業です。、既存事業・新規事業を問わず、「20年後のそれらの社会的な意義は何なのか」についてチームで考えます。

すると、何がUVPなのかをチーム内で意思統一しやすくなります。自分たちの事業をやり尽くした先にある社会的意義の発見にもつながります。

例えば、ファッションビジネスを展開している企業が、「私たちがファッションビジネスに取り組んでいる意味とは?」を考えた場合、その価値は「人に対しての感情的な価値・幸福感にある」という答えに辿り着いたとします。つまり、自分たちのビジネスの先にいる人が「友達と一緒にいても、個性的な自分でいられる」という実感を持つことが価値になり、「商品を売りたい」を越えて、そこにその人の人生が彩られているかどうかが重要になります。

議論がこの段階までいくと「ファッションだけでなく、人生を彩るためにはコミュニティビジネスにまで広げざるを得ない」というアイデアにつながるかもしれません。、そうなると、ある人が属する女子会などのコミュニティの中で、個性的な自分でいられることへの満足感や自信を持てるかという実感が価値になります。

企業にとっては、その価値を持っているかどうかを知るために定期的な心理アンケートを取ることが必要です。、たとえシンプルなアンケートでも、データを取っているかどうかが重要なのです。「実際こんなデータはGoogleでも取っていないため、ユニークになり得る」と堀田氏は指摘。ダブルハーベストループ実践のヒントを提示しています。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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