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SoRからSoEへの急展開、両者の技術発想の根本的な違い

2022年08月18日更新

企業が情報システムを構築する際の発想や考え方は、社会の変化に連れて変わっていくものです。インターネットが発達して誰もがスマホを持つようになった現代では、従来の発想からユーザーの望む方向へとシフトしていくのも当然の流れでしょう。

システムのモデルが、記録を重視する「SoR(Systems of Records)」から、ユーザーとのつながりを重視する「SoE(Systems of Engagement)」へ展開し始めたこともその流れの1つです。無機質でも記録することを重視する従来型のSoRから、利用することによってワクワクしたりすることを含めて設計されるSoEへと変化しているのです。

この記事では、情報システムの基本的な在り方を示すSoE、SoRというキーワードを取り上げます。その違いについて解説し、システム構築に関する根本的な考え方の変化について考えます。

SoEとはなにか

SoEを表現すると、利用者とのつながりを大事にして設計されるシステムとなります。“Engagement”は“婚約”と訳されることもある単語で、単なる交流ではなく、より強力な交わり、大げさに言えば絆(きずな)といったニュアンスにつながるでしょう。記録することを重視するSoRとは対照的に、顧客との絆をより強固なものにするという意味が込められた発想に基づくシステムモデルです。

SoEをベースにしたアプリケーションとして小売店舗での活用

SoEをベースにしたアプリケーションとして小売店舗での活用がある

SoEは、インターネット技術をフル活用して、ユーザーとの関係性を構築することを目的とします。市場環境などの状況に合わせて、頻繁にアプリケーションの変更や、集めるデータ内容を改変しながら運用するので、企業の広告や営業活動そのものであるともいえます。

SoEを最初に提唱したのは2011年、アメリカのコンサルタントであるジェフリー・ムーアという人でした。同氏の書いたホワイトペーパー『Systems of Engagement and The Future of Enterprise IT: A Sea Change in Enterprise IT』の中で、『これからの企業システムは、ユーザーとのつながりを重視すべきである』と主張していたことに端を発しています。

スマホとSNSの時代では日々大量のデータが発生しています。これらのデータが利活用されれば、顧客との関係性を構築するためのコンピュータシステムが広まることを予測したのです。

例えばSNSでの広告効果指標として使われている「エンゲージメント率」というものがあります。単純な広告の表示数ではなく、タップやクリック数であれば、「気に入ってくれた人の数」としてとらえることができます。

エンゲージメント率の向上を目指した結果、Web上では次第にユーザーが興味を示しそうな広告を個人別に表示できるようになるなど、顧客と結びつくことを目的とするさまざまなシステムが実用化されるようになりました。

SoRとSoE

出典:総務省「特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0

SoRとの違いについて

SoRは、データを正確にもれなく記録することを前提にしたシステムモデルです。正確で安定しており、信頼性があることが第一義であり、一度構築してしまえば、それが変化することはあまりありません。従来型のトランザクション処理を中心に考えた、企業活動に必須の重要なシステムであり、ERPなどの基幹システムなどがこれにあたります。

ERP

SoRが社内の業務改善に資するものであるのに対し、SoEは対顧客戦略を担うものであると言ってもよいでしょう。また、SoRは構築後、あまり改変を加えることのない静的なシステムモデルであるのに対し、SoEは常に内容を変化させながら運用する、動的システムモデルであるといえます。

SoEは「ユーザー体験」がキーワード

従来型システムであるSoRの設計思想では、データを正確に記録することを重要視するため、項目が多くても、入力がしづらくても、意に介さないようなところがありました。2000年代前半に、顧客との関係性を構築するためのシステムとしてSFA/CRMなどの営業支援システムがもてはやされ、その導入事例や効果が盛んに紹介されてきました。

しかしながらこれらのシステムは、SoRの発想でつくられており、すべての人が必要なデータを正確に入力しないと、十分に効果を発揮しないなどユーザー視点ではなかったのです。入力の手間が増える、上司が必要なことを入力しないので部下がシステムを活用できない、知られたくないことは入力されないなど課題が山積していました。

一方で、SoEは何よりもユーザーとのつながりを重視します。まず、親しみやすいデバイス、UI、あるいはSNSとの連携、IoTとの連携など、ユーザーにとっての扱いやすさについて配慮がされます。

従業員もシステムのユーザーであり、入力が面倒である、クリック数が多い、操作がわかりにくいといった悪いユーザー体験は無くす方向で考えるべきでしょう。SoEの発想は「ユーザー体験」を重視することから始まります。

DX時代のSoEを生かすアーキテクチャー「SoI」とは

SoRからSoEへとシステムが発展することに加え、「SoI」というシステム形態に分類されるものもあります。SoI(Systems of Insight)は、収集した大量のデータを分析して、顧客のニーズや購買に至る経過を見極めるためのシステムです。

これを実現するには、SoEとSoRを組み合わせる必要があります。データ活用方法の新たな発展系となるシステムモデルと位置付けることができるでしょう。

ここで確認しておくべきことは、SoEを志向する時代になっていったとしても、SoRが不要になったのではないということです。どちらも、それぞれの特性を生かして、重要な役割を担います。SoEが顧客との関係性を築きつつ収集したデータをSoRで分析し、戦略に役立てるSoIは今後増えていくことでしょう。

DX実現の中核を握るSoR、SoE、SoI

経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」では、老朽化、複雑化、ブラックボックス化した既存システムに費用をかけて依存が続く限り、本当のDXは実現せず、「2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失」が生じることが指摘されました。

多くの企業では、こうした「レガシーシステム」の存在がDX化の障壁になりつつあるという問題に直面しています。インターネット技術から生まれた新しいシステムであり、頻繁に更新し続ける必要があるSoEは、ブラックボックス化したレガシーシステムのSoRに足を引っ張られないよう、SoIがその仲立ちを行う形でDXを推進しようという流れができつつあるようです。

DX実現の中核を握るSoR、SoE、SoI

こうして老朽化したSoRは、SoE実現に向けて新たな役割を与えられることになり、停滞していたDXは再び進み出すかもしれません。SoEをSoRとうまく連携させる動きは、顧客との関係を管理し、強化しようとする企業にとって、今後さらに重視するべき情報システム構築の基本的な概念になっていくことでしょう。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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