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マイクロソフトにライセンス供与されたAI「GPT-3」の衝撃、自然言語処理が本格活用へ

2022年12月20日更新

2020年9月22日、Microsoftは非営利団体のOpenAIが持つ自然言語モデル「GPT-3」について、OpenAIから独占的にライセンスの供与を受けると発表しました。GPT-3は、世界で最も強力な言語理解モデルの1つであるとされており、今後Microsoft製品にどのように組み込まれていくのかをめぐり、各方面から注目を集めています。

YouTubeでも盛んに取り上げられ、あたかも人が書いたかのような自然言語による文章を作成するなど、SFで語られていたようなことが現実になってきたとして、GPT-3は話題になっています。ただ、「そもそもどのようなものなのか」という疑問はつきまとってくるでしょう。あまりに高度なAIであることから、人類にとって危険な存在にならないのかといった懸念を持つ人も出てくるかもしれません。

この記事では、GPT-3の特徴を説明した上で、その誕生の経緯を振り返ります。さらに、テクノロジーとしての実力を紹介し、今後を展望していきます。

GPT-3とは

GPT-3は、米国で2015年12月に非営利団体として発足したOpenAIが作成した自然言語モデルです。OpenAIはTeslaのCEOであるイーロン・マスク氏ら著名人が集まり設立したことでも知られています。2018年にGPT、2019年にGPT-2が発表されており、GPT-3はその最新版となります。

GPT-3は「Generative Pre-trained Transformer – 3」の略です。直訳すると「事前学習済み文章生成型-3」ということになるのでしょうか。Transformerとは、自然言語処理用の機械学習モデルの1つで、これをベースに事前学習を行い、文章を生成できるよう作りこまれたAIです。

書き出しの文を与えれば、それに続く文章を極めて自然な文章で自動的に生成するなどのことができ、多くの開発者や研究者に驚きを与えました。Microsoftは2022年11月、GPT-3言語モデルへのアクセスと Azure のエンタープライズ機能を組み合わせた新しい「Azure OpenAI Service」を発表しています。GPT-3は、AzureからAPIで利用できるわけです。

YouTubeチャンネル「GPT 3 Demo and Explanation – An AI revolution from OpenAI」では、「なぜパンはふわふわしているのか」という質問を投げかけると、湿度のコントロールなどパンの柔らかさが保たれることの理由を、ごく自然な文章で回答するアプリケーションの様子を紹介している。

GPT-3誕生まで

GPT-3ができるまでには、AI開発に対する当初のもくろみと違うことが起きてきた経緯があります。AIの発達の歴史として注目すべきことなので、経緯を追ってみます。

OpenAIの誕生とイーロン・マスク氏

OpenAIは2015年、イーロン・マスク氏をはじめ、米IT業界の著名人による10億ドルもの寄付によって設立されました。その設立の発表の中で、「非営利組織として、われわれの目標は、株主ではなくすべての人々にとっての価値を築き上げることにある」と書かれています。

AIは公共のために正しく使われるべきものであると考えたのが、非営利組織にした理由です。イーロン・マスク氏はAIが搭載された機械が、人間の手に負えなくなる未来に危機感を持っており、たびたびTwitterでそのような趣旨の発言をしていたのです。

ところが、その2年後の2018年2月に、イーロン・マスク氏はOpenAIの幹部職を辞任してしまいます。理由はマスク氏が経営するTeslaで、自動運転にAIを活用することから、利益相反関係にあることを指摘される恐れがあったからだといわれています。

イーロン・マスク氏は取締役を退き、OpenAIの直接的な意思決定から距離を置いたものの、AI開発から撤退したわけではなく、関わり続けています。その後もマスク氏は、2020年2月に「All orgs developing advanced AI should be regulated, including Tesla」(最先端のAIを開発するすべての組織は、Teslaを含め、規制されるべきだ)と述べたりするなど警鐘を鳴らし続けてきました。

実は、2020年2月のこのツイートは、その前に起こった、ある出来事がベースになっています。それは2019年7月のMicrosoftがOpenAIに10億ドル出資することを発表したニュースです。

Microsoftの思惑

OpenAIは、非営利団体の取締役会に支配されていたはずでしたが、投資家への配当倍率を制限した「上限付き利益」の会社「OpenAI LP」を設立しました。Microsoftから10億ドルの投資があったのはその直後でした。

このニュースから、外見的に当初の理念を捨てて、利益を求める団体になってしまったかのように見えますが、OpenAIのリーダーたちは10億ドルでは理想としている汎用人工知能を作るためには十分ではないといいます。彼らは理念通りに理想とするAIを作り上げるためにこの仕組みを設けたとの主張です。

しかしながら、GPT-3はMicrosoftがその使用権を独占することとなってしまいました。一企業のために極度に発達したAIを利用させるリスクについて、疑問を唱える人が出現しないとは言えません。

GPT-3の実力とは

GPT-3は自然言語AIと位置付けられており、1750億個のパラメータをすでに学習済みの『文章生成言語モデル』です。自然な言語で文章を生成したり、翻訳したり、質問に答えたりすることができます。

OpenAIが開発したモデルは、与えられた文字列に続く文字列を予測して生成するというものです。単純に思えますがこれが「言葉を理解する」能力と同じ現象であり、これによって、質問に答えたり、翻訳したり、与えられた言葉をもとにJavaScriptのコードを書くということまで行います。

さらに、GPT-3のもう1つの特徴として、大量の機械学習をしなくても少ない事例で学習を済ますことができる点が挙げられます。これは、世界最大級のニューラルネットワークを持っているためにできることです。

​「Few-Shot Learning」と呼ばれるこの機能は、“教師ありデータ”を用いて、あたかも教師に教えてもらいながら自ら学習する方法の1つであり、OpenAIが目指す汎用人工知能の基礎的機能となり得るものです。

GPT-3の課題とは

驚くべき能力を持ったGPT-3ですが、課題もあります。GPT-3は過去に学習した言語を、次に発生する確率をもとに、自然になるよう並べているに過ぎず、理路整然とした長い文章を作ることができません。

それと、自然科学の分野に関する質問に正しく答えることもできません。例えば、「冷蔵庫にチーズを入れれば溶けるか」などです。人間なら常識や推論に基づいて答えられる質問でも、AIは苦手とします。

また、ベースとなる学習済みの言語をためておくストレージの維持費も無視できません。このような、「言語で意思疎通のできるAI」が本当にだれでも利用できるようになるまでには、まだ道のりは長いと言えます。

「GPT」のこれから

GPT-3の登場は驚きを持って受け入れられました。GPT-3を利用したボットが人気掲示板「Reddit」に一週間書き込み続けていましたが、だれも、AIの仕業だとは気づかなかったといったことがあり、それが大きな話題になりました。書き込みの中には、自殺志願者の相談に対する返答もあったといいますから、倫理的な課題につながる可能性もあります。

こうした現象が示唆するのは、AIが情報発信を手掛けることにはリスクが伴うということでしょう。たとえ自然な言語を生成できたとしても、善悪や倫理観のないAIは理知的な言葉の選別ができません。フェイクニュースを流したり、差別的な発言をしたりする可能性もあるということです。

人間が自然言語AIとうまく付き合っていくためには、こうした悪用をいかに防止していくかという対策も、同時に考えていかなくてはなりません。

これまでの人類史でも、火、鉄、火薬、そして核技術など人類の生産性を飛躍的に高めてくれるものには、必ずと言っていいほど「もろ刃の剣」と言える側面がありました。AIもそのような側面が存在することを理解した上で、発展させる必要があるでしょう。

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鬼尾宗慶
ITをはじめとする、各種ビジネス分野のライター。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。
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