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加熱する量子コンピュータの実用化競争、国内外で進む研究開発

2022年04月22日更新

大規模なデータ処理に不可欠なGPUの普及・コンピュータの計算機機能の向上により、さまざまな業種にわたる企業でデータ活用の取り組みが行われています。コンピュータの分野でも技術革新により、今までの常識が覆ろうとしています。それが量子コンピュータの登場です。

日本では、量子コンピュータは基礎研究フェーズでとどまっていましたが、政府の戦略方針変更により2022年から一気にビジネスでの実用化に向けて舵が切られていくことになります。

ITに携わる方にとって、量子コンピュータは他人事ではなく、ビジネスを変革する武器となり得ます。この記事では、量子コンピュータ実用化の実情についてまとめます。

現在普及しているコンピュータと量子コンピュータの違い

現在普及しているコンピュータと量子コンピュータの違い

量子コンピュータと聞いて、まず頭に浮かぶことは「オフィスで使っているコンピュータと量子コンピュータは何が違うの?」という疑問ではないでしょうか。

2つの大きな違いはコンピュータにおける入力データの認識方法です。オフィスで使っているコンピュータは「古典コンピュータ」と言われており、0と1(これをビットと言います)をスイッチのオンとオフの要領で認識して、0と1が並ぶ列(例:00011011…)を認識してデータを処理します。

一方、量子コンピュータは、量子力学の原理を用いて0と1を共存させながら持つ(これを量子ビットと言うます)ことができる性質があります。

古典コンピュータでは0と1の2つがあった場合、(0,0)(0,1)(1,0)(1,1)の4通りのうち1度に1通りしか表現することができません。量子コンピュータは0と1を共存できるので上記4通りを1度に表現することができます。古典コンピュータでは4回の計算が必要だったものを、量子コンピュータでは1回で終わらせることが可能です。

この性質から、古典コンピュータに比べて量子コンピュータは計算するプロセスを省略できる分、計算処理の高速化が可能となります。

量子コンピュータ自体は既に実用化

実は、量子コンピュータは2011年にD-Wave Systems社によって既に販売・実用化されています。その量子コンピュータは、量子アニーリング方式という技術を活用しており、さまざまな組み合わせが考えられる問題に対して、最も適切と考えられる解を探し出します。

販売された量子コンピュータは、2011年の販売当初は128量子ビットのスペックだったものが、10年後の現在では2048量子ビットまで進化を遂げており、より複雑な問題が解けるようになってきています。

D-Wave Systems社が販売している量子コンピュータ

キャプション:D-Wave Systems社が販売している量子コンピュータ(画像はD-Wave SystemsのYouTubeから)

ちなみに量子アニーリング方式の他にも、量子ゲート方式という技術があります。こちらは対応するプログラムを開発できればさまざまな用途に活用できるものですが、より難しい技術となっています。

現在はクラウドサービスとして、時間当たりの料金を支払えば量子コンピュータを利用できる環境が整ってきています。パブリッククラウドで有名なAWSでも「Amazon Braket」というサービスが2019年から提供されています。

では、実際どのように量子コンピュータを操作するのでしょうか。これまでは、Pythonなどでコンピュータが認識できるプログラムを書き、実行しています。量子コンピュータは、操作自体は古典コンピュータと変わらないのですが、最終的には解きたい問題を数式に変換して量子コンピュータへ投入する必要があります。その数式変換には一定の数学・物理の知識と実装経験が必要になってきます。

海外の量子コンピュータ実用化に向けた取り組み

海外の量子コンピュータ実用化に向けた取り組み

海外における量子コンピュータの実用化では、アメリカが先行しています。アメリカが量子コンピュータへの取り組みを始めたのは2009年です。そして2019年からは5年間で最大13億ドル(約1495億円)規模の投資を行っています。

この予算の規模からも国が本気で推進していくという意気込みを感じます。加えて企業としても大きな規模の投資をしており、量子コンピュータの推進力はトップクラスです。アメリカの中でも量子コンピュータに取り組む代表的な企業として、IBMとGoogleが挙げられます。

IBMは、量子コンピュータの中でも難しい量子ゲート方式の技術開発をリードしています。2017年には20量子ビットの量子コンピュータを提供し、さらに進化を続けて2021年11月には127量子ビットの「Eagle」プロセッサを発表しています。

Googleは、2011年にD-Wave Systems社が量子コンピュータを販売し始めた2年後の2013年に、量子アニーリング方式のコンピュータを購入し、NASA(米航空宇宙局)などと量子AI研究所を設立し、研究を開始しました。2021年5月に開催された「Google I/O 2021」では新たな研究開発施設が紹介され、実用性の高い量子コンピュータを10年以内に実現することを目標として掲げました。

Google I/O 2021 基調講演

Google I/O 2021 基調講演より

日本の量子コンピュータ実用化に向けた取り組み

日本では、これまで国全体で量子技術に対する戦略を策定しておらず、各省庁により個別に施策が行われてきました。その状況を打開するため、2020年に量子技術イノベーション戦略を策定し、200億円の予算をつけて推進してきました。

<主な取り組み>

  • 戦略的な技術開発
  • 産学連携によるイノベーション拠点の形成
  • 人材育成の取組

ただ、研究開発を主とした政策になっていたため、なかなか実用化に向けた動きが生まれにくい状況となっていました。そこで2022年1月の量子技術イノベーション会議にて、実用化に重点を置いた見直し案が提示されました。

<今後の対応策>

  • 量子コンピュータの産業、研究開発
  • 量子ソフトウェアの産業、研究開発
  • 量子セキュリティ、ネットワークの産業、研究開発
  • 量子技術の知財、標準化

内閣府 量子イノベーション会議 第10回 量子技術イノベーション戦略の見直しの方向性 中間取りまとめ概要(案)

(出典:内閣府 量子イノベーション会議 第10回 量子技術イノベーション戦略の見直しの方向性 中間取りまとめ概要(案))

また、続々と設立協議会や研究開発機構が設立されています。

量子イノベーションイニシアティブ協議会(Qll)

東京大学が占有使用権を持つ量子コンピュータを活用し、産官学問わずメンバーが集まり研究開発の成果である論文が公開されています。

量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)

業種を超えて企業が集まり、量子技術の動向や産業活用、制度やルールの検討などテーマに分かれて活動を推進しています。

ムーンショット型研究開発事業

日本発の破壊的なイノベーションを目指した大型研究プログラムで、量子分野では2050年までに誤り耐性がある汎用量子コンピュータを実現することを目指しています。

日本でも国策として量子技術に焦点を当てた取り組みが推進されており、企業においても数多くの実証実験が行われており成果が出てきています。

ここまで見てきたように、量子コンピュータは研究開発の段階から、実用段階へと急速にシフトしており、日本を含めて世界の国や企業が発展に取り組んでいます。今後はデータ活用との相乗効果も出てくることが見込まれ、量子技術の今後の動向は見逃せません。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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