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AI時代のマネージャーの条件とは? DX人材・AI人材が育つ組織の作り方

2022年09月05日更新

DATAFLUCTは、データに基づいたビジネスモデルの変革方法について学ぶオンラインイベント「Data Cross Conference(データクロスカンファレンス)」を2022年2月9、10日の2日間にわたり開催しました。

初日の最後のセッションでは、「AI時代のマネージャーの条件とは?DX人材・AI人材が育つ組織の作り方」と題し、日本ディープラーニング協会の人材育成委員で『文系AI人材になる』『管理職はいらない AI時代のシン・キャリア』著者の野口竜司氏と“データ活用の民主化”を推進するDATAFLUCT代表の久米村隼人が、AI専門Webメディア『AINOW』編集長として多くの企業の取り組みを取材してきた小澤健祐氏をモデレーターに迎えました。

いま、管理職にもAIを使いこなすスキルが求められようとしています。AI時代を迎えつつある中、AIを組織全体で活用するために、マネージャーはどのようなマインドでスキルを磨き、ツールを駆使しながら、組織が成長する環境を整備すればよいのでしょうか。

当セッションではDX・AI人材が育つ組織を作るには何が必要かを探ります。

DX推進と人材育成の現状とポイント

はじめに、本セッションの背景となる情報として、野口隆二氏がDXを推進するための人材育成の現状について説明しました。

「9割以上の企業がDX未着手であるという悲しい事実を、いま眺めています。」と口火を切った野口氏は、AIの導入状況とAI投資からのリターンの回収をアメリカと比較した資料を提示しました。日本はAIの導入も回収も大きく遅れているのが分かると指摘します。

「AI導入の話は最近になって日本でも盛り上がっているが、海外との差はどんどん広がっている」と野口氏。なぜ日本ではAI導入が進まないのかについては、「社員のAIスキル不足が大きな要因なのではないか」と分析します。

AIスキル不足を紐解くと、深刻なのはAIを作る側の「理系AI人材」の不足ではなく、できたAIを使いこなして企画・立案できる「文系AI人材」の不足であると野口氏は指摘しています。AIを活用できる「文系AI人材」の育成は急務と言えます。

AIの活用推進のキーは文系AI人材

野口氏は参考資料として、AI人材に必要なスキルを示した資料「AI人材スキルマップ」も提示しました。

AI人材スキルマップで学びの道筋もくっきり

AI時代の理想の組織とは

続いて3名によるトークセッションに移りました。まずは「AI時代にはどのような組織が向いているのか」について議論しました

小澤氏:久米村さんはDXやAIの文脈で考えたとき、いま日本の組織はどんな問題を抱えていると考えますか?

久米村:DXをやろうという時に、社内の“猛者”たちによる集合知を作れない企業が多いと思います。

野口氏:久米村さんの話に同意します。中央集権的な形にできなくても、それぞれの事業部内で推進メンバーが一定人数いるならできなくはないと思いますが、年間の(AIによる)実験数が少ない状況が課題です。

久米村:時間をかけても少ししか実験できない状況なら、ノーコードで使えるツールを使えばよいと思います。

野口氏:ノーコードツールで作る方が、データサイエンティストが作るより高精度のものができるかもしれないですね。

小澤氏:まとめると、開発力は必ずしも必要ないということだと思います。そうなると、組織としてはどんな人材が必要になるのでしょうか。

野口氏:現場感覚があってAIのことが少し分かる人と、現場情報を理解できるデータサイエンティストがペアを組むと最強なのではないかと思っています。

久米村:データサイエンティストがやっている仕事をみんなでできるようにするという考え方が重要ですね。ノーコードツールを使えば、エンジニアや運用する人、ビジネスデザイナーそれぞれが頑張る部分がフラットになって同じ土台に立てる。作る人が重要なのではなく、ビジネスに応用できる案件をいっぱい持ってこられる人が大切です。

AirLake, Comler

小澤氏:最近はMLOpsという言葉がよく使われるようになって、エンジニアやデータサイエンティストがいかに簡単に開発できて、スムーズにモデル運用できるのかについて注目が集まっています。そこに必要なのが“弾を込めていく”人材です。このようにMLOpsのハードルをどんどん下げていくことが、これからの組織には求められてきます。

AI時代はどのように組織を作ればいいか

小澤氏:実は、事前にいただいた質問の中で一番多かったのは、「DX人材を作るにはどうしたらいいか」よりも、「どのように組織を作ったらいいか」でした。DX人材不足の問題について、野口さんはどのように感じられていますか?

野口氏:思った以上にDXが社会現象化しています。政府の予算取りやメディアの報道も盛んですし、DX人材のニーズは切実で、この流れは本物だなという感じがしています。

小澤氏:久米村さんは、DX人材が不足しているからツールが必要だという印象はありますか?

久米村:そもそもツールが必要になるまでの需要が出てこないというマーケット感で、弾が込められてない印象です。企画をする人がいないという状況。まずはそういった組織作りから頑張ってほしいです。

小澤氏:企画がない、予算がないといった課題を聞くことが多いのかなと思いますが、野口さんはいかがでしょうか。

野口氏:弾を込める人がいないというのは良いキーワードです。それはトップダウンで行うのか、それともボトムアップなのか。双方で弾を込めていくような組織作りができれば勝ちパターンになるのではないかと思います。どちらか一方から生まれるのを待っている状態ではなく、相互から生まれて好循環するような形になれば、AIで勝つ組織になれます。

小澤氏:事前の質問でもあったのですが、DX人材はエンジニア力より、どういったところに問題があるのかを発見する力の方が重要なのでしょうか。

久米村:企画を作る人がすべてで、企画が動き出したらほかの人に任せられると思います。最初に大きな球を転がすことのできる人が最重要DX人材ではないでしょうか。そんな1人のDX人材プラス10人くらいでやれば、DXできるのではないかと思います。

小澤氏:AIのプロジェクトを進めている人の40%は何が課題なのかわかっていなかったという統計もあり、企画力は大変重要だと思います。その一方で、企画を作るだけならすぐできるのも確かなのに、どうして実現できないのでしょうか。何か落とし穴みたいなものがあるのではないかと考えられますが、久米村さんはどう思いますか。

久米村:説得力とシナリオですね。データから価値を生み出す一連のロジックが足りないのだと思います。それが芯をとらえていないと説得力がなくなる。真の課題が見えて、会社として取り組むべきことが明確になってみんなが動き出せば、ものごとが進みだすのではないでしょうか。

小澤氏:野口さんは、企画力のある人材をどのようにとらえていますか。

キラーユースケースとは

野口氏:AIができることと、解けるとインパクトが大きい自社の課題、確実に早く解決できる課題をうまくマッチングしたものを「キラーユースケース」と呼んでいます。AIができることをしっかりと理解していないと、キラーユースケースを企画できません。過大評価も過小評価もせず、最新事例の知識と技術への理解を備え、その中で自社に大きいリターンをもたらす課題や確実に早く解決できる課題を見つけられる能力をもつ人材ですね。

AI活用人材スキル育成開発マップ

小澤氏:きれいにまとまりました。ありがとうございます。AIに必要な人材は企画力を持っていて、弾を持ってこられる人材ということですが、どのようなファーストステップが必要と考えますか?

久米村:2段構えが必要だと思います。DATAFLUCTはノーコードのAI・機械学習ツールの提供を始めましたが、その活用方法についての顧客の理解は、私たちの想定とは差があることに気づきました。そこで、非デジタル人材を1年かけて一人前のデータ活用人材に仕上げるプログラムに取り組んでいます。それがファーストステップの1つ目です。もう1つは、顧客と一緒にプロジェクトを進めることです。1年間伴走しながら、何が問題なのかを見つけてもらいます。弾を込められるようにするのと弾の成功率をあげるという2パターンでやる仕組みです。これを10か月くらいやらないと、AIに必要な人材になれないと思っています。

小澤氏:弾を作ることのできる人材が必要だというところに話が落ち着いてきたようですが、野口さんの日本ディープラーニング協会での教育のお話をお聞かせください。

野口氏:AIの知識がない方々をお預かりしてAIプロジェクトを推進できるような人材に育て、そのまま案件を持ってもらうこともやっています。従業員にAI偏差値という指標を設定し、推進リーダーは60くらい、メンバーは55くらい、全体が50くらいあればいいです。推進リーダーには英才教育も施し、一方で全体の底上げも行う2段構えでやっていくと、歯車がしっかりかみ合っていきます。

小澤氏:どういう組織を作ればいいかという話で進めてきましたが、「企画力が出せる組織」というのはひとつの回答になりそうです。ほかにもあるのでしょうか?

久米村:日本の企画力を下げてきた1つの原因は、“コンサルティング会社への丸投げ”にあると思っています。主体であるはずの企業の上層部が、考えることを放棄している感があります。そのため、部下からの企画を上司が正しく評価できない。企画の通らない元凶はそこにあるのではないかとも思います。

野口氏:本来なら事業会社の人の方が、企画力があってしかるべき。キラーユースケースを見つけられるのは事業会社の人のはず。なぜ企画が出てこないのかを掘り下げ、社内から企画が生まれるようにできれば勝率は上がるはずです。

AI時代のマネージャーの条件とは

小澤氏:組織としての企画力を高めていくためにはどんなマネージャーになっていけばよいかについて聞きたいと思います。このテーマの著作のある野口さんはいかがですか。

野口氏:いくつか条件はあるのですが、1つ挙げるならば「DX脳」と「経営脳」の両利きでできる方が必要だと思います。DXやAIについての解像度の高い理解と企業内でどのように経営にコミットするかの両方を掛け合わせることのできる方がよいと思います。

小澤氏:それは、会社としてどの市場でどのように攻めていくのかといったマクロの視点を持つということですか。

野口氏:マクロの視点も重要ですが、結果の数字にコミットする経営側の視点が求められます。営業成績などの経営上重要な指標を背負える状態が必要ということです。

久米村:プロダクトマネージャーは、経営のことも技術のこともチームのこともすべてわかったうえで多数の案件をなんとかしなければならない。たくさんのプロジェクトマネージャーを管理できる。そういう人材が必要になると思います。

小澤氏:プロジェクトマネージャー of プロジェクトマネージャーということですね。野口さんは現場のマネージャーに足りないと思うところは何かありますか

野口氏:現場のマネージャーで見かける事例は、モノ・ヒト・カネが不足していること。これらがないと十分に活動できません。そう考えると、AI時代のマネージャーの条件に1つ付け加えるならば、モノ・ヒト・カネを調達できる人だと思います。

小澤氏:期待値コントロールという点ではどうでしょう。

久米村:上層部からの期待値に対しては“成功率は低いですよ”みたいに回答し、部下に対しては成功率を高めるようにマネジメントする。そんな風に自分が調整弁となるようなマネージャーが必要だと思います。

まとめ

本セッションでは、AI時代の組織や人材に求められているものについて、意見が述べられました。日本ディープラーニング協会・野口氏は「現場もAIも分かる人材と、現場情報を理解できるデータサイエンティスト」が必要といい、DATAFLUCTの久米村は「すべてをわかったうえでリーダーシップをとれる」人材が必要という意見を述べました。

両社に共通するのは「企画力」の重要性でした。現在の日本では、「弾込め」という言葉で表現されるAIで開花させるべき課題解決事案をたくさん持ってこられる人材が不足しており、この人材を育成する方法を考えるべきという意見でした。

久米村は「コンサルティング会社や代理店に依存し、自ら考えることをやめてしまっている」ことも原因の1つだと言い、「ベンダーの言いなりになるべきではない」とも忠言していました。また、AIは事例研究と情報収集も重要で、AIで課題を解決しようとしている事業会社同士の情報交換も重要ではないかと提起していました。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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