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出島戦略の最前線、AI活用をいかに浸透させるか

2022年07月26日更新

価値観の多様化や自然災害などが要因で不確実性が高くなる一方、企業の成長は鈍化傾向であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる通りビジネスに変革が求められています。ビジネス変革としてAI活用を検討している企業もいることでしょう。企業のAI活用は、コストやリソースの面でも社内に浸透させることが重要です。

最近では、社内にAI活用を浸透させる手段として、スタートアップと連携した「出島戦略」が注目されています。これは、創造的な事業を創出するために、企業内の他部門とは異なる手法で評価する異質と言える組織を、江戸幕府において対外政策の1つとして長崎に作られた人工島である「出島」に見立てて立ち上げたものです。

今回は、企業がAI活用を社内に浸透させるための必要な要素を紹介します。スタートアップ企業と連携した出島戦略を改めて見直すことができるでしょう。

AI活用を社内に浸透させるために必要な要素

DX推進を検討中の企業がAI活用を社内に浸透させるには、経営者がAI活用に賛同できるか、社内で推進組織を構築できるか、社内でデータサイエンティストを育成できるかといった要素を確認する必要があると言われています。

経営層がAI活用に賛同できるか

経営層が現場のAI活用を承認し、重視する意思を示さなければ、浸透させることが難しくなります。現場に任せきりでAIプロジェクトを進めても、最終決定の段階で通らなくなるケースも少なくありません。経営層が現場に介入しないAIプロジェクトの場合は、ボトムアップ型で「プロジェクトをやりたい」意思が先行している状態です。

我が国のAIガバナンスの在り方ver. 1.0

AIガバナンスの在り方について経済産業省が提示(『我が国のAIガバナンスの在り方ver. 1.0』 AI社会実装アーキテクチャー検討会 中間報告書から)

そのため、経営層から見ると企業の成長ではなく、AI活用が目的となるケースが考えられます。AI活用により経営層が知りたいことは、導入効果です。導入効果やメリットが見えてこなければ、経営層の最終的な理解を得ることは難しくなるでしょう。

AI活用は、経営層の賛同を受けた上で、現場との一体感を醸成する必要があります。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は、2021年4月に公表した「IT-ROIを検討する際に求められる属性情報」において、IT-ROIの評価方法として2年から最大5年間の投資回収期間を設定しています。AIプロジェクトでも、最大5年を見据えた投資回収計画をつくるなどの工夫により、経営層と現場に一体感をつくれるかもしれません。

社内で推進組織を構築できるか

社内でAI活用の推進組織を構築することは、企業に自走体制を設けることも方法の1つです。トップダウンによるAIプロジェクトの推進では、強制的な達成期間の設定が考えられるでしょう。トップダウンの場合は、早期的な投資効果に過度な期待がかかります。

社内で推進組織をつくる場合は、AIを導入すればすぐに業務変革に成功すると期待してしまいがちです。実際には、既存事業への反映や関係者の人間的な感情などもくみ取る必要があります。そのため、綿密な準備をしていても、期間内で成功させることは容易ではありません。
AI企業のAppierでチーフAIサイエンティストを務めるミン・スン氏は、社内で推進組織を構築するには、プロジェクトの予算の枯渇とプロジェクトの精度未到達という2つのリスクを想定しておくことが大切と指摘します。社内で推進組織を構築して、たとえPoC(実証実験)に成功したとしても、全社オペレーションに構築するまで時間とコストがかかるため、断念することも考えられます。

社内でデータサイエンティストを育成できるか

社内でデータサイエンティストを育成することは、AI活用において重要な判断になります。AI活用の目的は、単純作業の自動化です。単純作業を自動化する裏側では、ヒトでは取り扱いが不可能なデータ量を扱う必要があります。実際の業務ではなく、AIと既存事業をつなぐのは、ヒトの役目です。有益な情報でAI活用を取り組むには、データサイエンティストの存在が欠かせません。そのため、分析や解析のスキルを持ったデータサイエンティストの育成が必要です。

経済産業省は2021年3月に、『AI・データサイエンス人材育成に向けたデータ提供に関する実務ガイドブック』を発表しています。企業のデータを取り巻く現状と課題や、人材育成事業の枠組に関する解説と手引きとして、ハッカソン型のモデル、有償コンサル型のモデル、共同研究型のモデル契約、データ提供型のモデル契約など具体的な事例を示しながら解説しているので、参考にするとよいでしょう。

AI・データサイエンス人材育成に向けたデータ提供に関する実務ガイドブック

経済産業省『AI・データサイエンス人材育成に向けたデータ提供に関する実務ガイドブック』から

出島戦略とは

社内でAI活用を浸透させるには、全社的に可視化できるビジョン形成が必要です。自社にデータドリブンな人材がいない企業は、スタートアップ企業と連携した出島戦略が有効となります。出島戦略は、江戸時代の西洋との貿易窓口になっていた長崎の「出島」にたとえて本社から独立した組織による戦略となります。

出島戦略は、DXを導くために小組織を出島のように設定する方法です。既にあるビジネス資産を利用しながら、実りある新たな事業を模索する過程で得たノウハウを自社に戻すことを目的としています。

出島戦略は、2018年11月に日本経済団体連合会「Society5.0―ともに想像する未来」で提唱し始めました。出島のような組織をつくることで既存事業と新規事業の振り分けを明確にできます。

出島戦略の最大の論点

出島戦略は、既存事業と新規事業で活用されるルールや管理手法が違うことを前提に考えることが最大の論点です。

既存事業と新規事業を併存させてしまうと、既存事業の担当者や制度、新規事業に取り組む現場との間に、組織・制度・人の対立が生まれます。AI活用を社内に浸透させる重要なポイントです。

出島戦略が必要な理由

DXで新規事業を生み出そうとしている企業にとって、出島戦略が必要である理由について指摘します。

  • 本社の意思決定や評価制度の制約に縛られないでリスクをとって挑戦できる
  • スタートアップ企業の文化・制度を構築できる
  • 外部からの情報収集や人材参画が容易
  • 新規事業に向けて実証実験をしやすくなる
  • 新規事業の可能性の幅を拡大できる
  • 新規事業のスピード感を出せる

出島戦略は、スタートアップ企業が独自で展開するため、既存事業のコンプライアンスやガバナンスの制約がかからないところが最大のメリットと言えるでしょう。

出島戦略の成功例

出島戦略の成功例として、日立製作所の矢野和男氏による出島組織を紹介しましょう。日立製作所は、独自開発してきた幸福度計測技術を事業化し、コロナ禍の企業のマネジメント支援などに活用するとともに、計測した幸福度を多様な場面で活用して、新たなハピネス&ウエルビーイング産業を創生することを目的に株式会社ハピネスプラネットを2020年7月に設立しました。

ハピネスプラネットは、「幸福度」の向上とAIを活用したヒューマンビッグデータ研究を進めています。テーマは生産性と個人の幸福度の両立です。感情部分について、個人の幸福度をデータとして計測するサービスといいます。「人が周りをどれだけ幸せにしているか」を世界で初めて数値化したとしています。日立製作所本社の出島組織として、成功した数値結果は次のとおりです。

  • 従業員の幸福度54%増
  • 受注達成率27%増
  • コールセンター受注率34%増

ウェアラブルセンサやスマートフォン端末から得られるデータを活用して企業の従業員の幸福感を計測します。従業員のハピネス度のデータ化で生産性と満足度を両立させた事例です。

AI活用の浸透に出島戦略を進めてみよう

社内でAI活用を浸透させるには、本社組織から独立した出島組織が必要なことを解説してきました。出島戦略をトップダウンでもボトムアップでも社内で進めた場合、既存の組織体制が障壁になる可能性が大きくなります。

古い体質を無理に内側から変えようとするのではなく、出島のような組織を作り、組織を離れた環境で既存事業にない時代の波に乗った展開をするという新しい取り組みです。例えば、データ分析とAI実装を、出島となるスタートアップの選定から始めてみるといった取り組みを検討するのも1つのアイデアです。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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