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クルマの基盤ソフトを構築へ、世界の自動車メーカーがしのぎを削るわけ

2022年05月09日更新

トヨタ自動車が2025年にも、次世代車の加速や安全制御機能などをコントロールする、オペーレーティングソフトである車載ソフトウエア(車載OS)を実用化するというニュースがありました。

今後の自動車は、こうしたコンピュータによる制御の重要性が増していくと考えられ、車載OSがPCなどのOSなどと同様に、非常に重要な意味を持つと考えられています。

この記事では、車載OSとは何かを解説し、その歴史と現状、しのぎを削る車載OSの標準化争いについてレポート、車載OSが作るクルマの未来を占います。

クルマのデータを一元管理

車載OS(ソフトウエア)とは、自動車に組み込まれる各種装置の基本的な制御を担うソフトウエアのことです。分かりやすい例として、カーナビは地図や位置情報・交通情報など外部からの情報を得るための通信が必要となりますが、これは通信を制御する情報系のシステムです。

また、燃料の混合気の濃度や、ステアリング、ブレーキなど車の走行を支える基本的な動きを支援するシステムもあります。これも内部の情報や外部のさまざまなデータによる制御を担っています。

現代の車は、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる電子制御部品をたくさん搭載するようになり、複雑化の一途をたどってきました。ECUは高級車になるほど多く取り付けられています。

これらの機器から出るデータをもとに、クルマが安全で快適に走れるよう制御がなされているわけですが、車載OSは、このデータを一括管理しようというわけです。

1つ1つのECUに搭載されているソフトウエアはさほど大きくないものですが、たくさん集まると、統一性の問題や生産効率の問題、故障・不具合のリスクが高まりますし、なんといってもコストがかさむのが問題となります。

そこで複数のECUを束ねた機能を持つ、脳にあたる部分の車載OSが必要とされているのです。

車載デジタル技術の歴史

コンピュータが一般のものになり始めた1980年代中盤から、クルマにもデジタル技術が取り入れられるようになります。ECUが採用され、機械式キャブレターがEFI(電子制御燃料噴射装置)になり、ATの変速機も電子制御になります。

ECU

デジタル技術のクルマへの応用は2000年になるとさらに加速し、走行そのものを制御するシステムや、カーナビやオーディオが統合された車載情報システムも登場するに至っています。

ABS、自動停止装置、横滑り防止装置など安全性能に関する装置にもデジタル技術が大いに寄与しています。デジタル技術が普及し始めて40年余りで、すでにデジタル技術を使わないクルマは考えられなくなりました。

車載OSの現状

クルマにデジタル技術が使われ始めて40年たちますが、OSのような機能を持つソフトウエアを搭載する発想が生まれ、本格的に開発がスタートしたのは最近のことです。欧州で車載ソフトウエアの標準化の話が持ち上がったのをきっかけに、車載OSの世界競争が始まりました。

当時は、車載OSは米国方式、欧州方式、中国方式の3つしか生き残らないだろうなどといわれましたが、冒頭で述べたようにトヨタも開発に名乗りを上げて自前のOSを開発、欧米のOSと対抗する構えです。

しのぎを削る車載OSの標準化争い

車がデジタル化していくということは、車載OSを制する者が自動車界を制するものと考えられます。そこで、世界の大手自動車メーカー各社は目の色を変えて開発競争に突入しています。

クルマの開発がハードからソフトウエアの開発へ比重が移ることによって、ハードの開発を待たずにソフトの開発ができ、クラウド環境でグループ開発ができるなどのメリットもあります。

車載OSの仕様を外部のソフト開発者にも開放すれば、幅広い業種にクルマ関係のソフトウエア開発の機会を提供することができます。スマホのアプリを多くの事業者が競って作っているように、車載OSに搭載するアプリケーションが次々と作られることも想定されます。

このように、車載OSの利用者が増え、開発者も増えるという好循環が回りだせば、そこから、膨大な量のデータが集まります。すると、ここからまた新しいサービスが生まれます。車載OSの業界標準としての地位を確立できれば、こうした「プラットフォーム」効果が見込め、次世代車の開発で優位に立つことができるのです。

車載OSというのはWindowsやAndroidよりコード数が多いといわれており、自社開発となると、その開発費は膨大なものになるでしょう。それでも自社で開発した車載OSが世界で標準仕様化された後に得られるメリットは、それを超えるものがあります。

日本における車載OS開発

日本で本格的に車載OSの自社開発を発表しているのは、冒頭で紹介したようにトヨタ自動車です。日産自動車や本田技研工業は他社製のプラットフォームを採用する流れになりそうです。

トヨタが開発する車載OSは「アリーン」と呼ばれています。トヨタの子会社である「ウーブン・プラネット・ホールディングス」が開発をするということです。

アリーンは2025年を実用化のめどとしており、SUBARUなど提携の関係企業や国内外のEV車を手掛けるスタートアップ企業などに対して供給することをもくろんでいます。

安全で快適な運転を支援するハンドルやブレーキ、加速などの制御機能や、外部との通信を行う地図情報・渋滞情報などのナビゲーションデータの受信もアリーンが行います。

欧州における車載OS開発

欧州ではドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)が、車載OSのプラットフォーム化を狙って目下開発中です。

2021年7月に発表された内容によると、このプラットフォームは「ソフトウエアスタック2.0(E3 2.0)」と呼ばれるもので、車載OSの「VW.OS」、自動車用クラウド「VW.AC」、自動運転レベル3~4への対応、その他ユーザー体験をより良いものにするための各種機能や自動充電の機能も備えたものになるとのことです。

E3 2.0プラットフォームを開発するのは同グループのソフト開発会社であるCARIAD(カリアド)社で、2030年までに最大4000万台の車両がE3 2.0プラットフォームで稼働することになるといいます。

VWグループは、「Scalable Systems Platform(SSP)」という別の新世代車両用プラットフォームも開発中で、2026年以降SSPを使ったEVを生産する計画です。E3 2.0と合わせグループ全体に広げ新たな展開を目指します。

CARIADは、このほか、Audi(アウディ)やPorsche(ポルシェ)向けのソフトプラットフォームである「E3 1.2」も開発中であるほか、レベル4自動運転機能の開発も行っています。自動運転機能もアメリカなど世界中で各社がしのぎを削っている最中ですが、同社はすでにミュンヘンで自動運転バスの最初の試験を実施するなど、イニシアチブを取ろうとする動きが活発です。

レベル4自動運転機能

自動車メーカー以外の車載OS開発

Googleは車載OS「Android Automotive Operating System(AAOS)」を開発しています。これは、安全運転など走行を支援するものではなく、「インフォテインメントシステム」と呼ばれる、オーディオとナビゲーション、通信を制御して利用者の快適性を向上させるものです。

これは、スマートフォンを接続する必要はなく単独で動作し、「Google Assistant」によって運転中にハンズフリーで操作できます。Googleが提供する「Google Maps」をナビゲーションサービスに用いて充電スタンドの検索も可能となります。またこれらに使えるアプリは「Google Play」からインストールできるなど、スマートフォンを使い慣れたユーザーなら何の抵抗もなく使えることが強みとなるでしょう。

なお、Googleは自動運転の研究を継続していることもよく知られています。同社の自動運転車開発部門はウェイモ(Waymo)といいます。2021年8月24日、サンフランシスコで、「ロボタクシー」なる自動運転車の実証実験を開始したとの報道もありました。

クルマの未来と車載OSの行方

自動車業界は100年に一度という転換期に入っているといわれています。ガソリンや軽油を燃料とするエンジンで動くクルマは過去のものとなり、人間が運転するクルマも過去のものとなるでしょう。

クルマはコンピュータで制御されるデバイスの集合体となりました。主導権競争は自動車産業とは関係ない業界も参入し乱戦状態です。クルマの未来を左右するのはエンジンや足回りではなくAI、と半導体、そしてデータです。ここでデータの利活用についてのノウハウが重要性を帯びてきます。

自動車業界以外でも言えることですが、パラダイムシフトの時代はデータをうまく利活用できるプレイヤーが有利になるに違いありません。

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鬼尾宗慶
ITをはじめとする、各種ビジネス分野のライター。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。
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