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「分散クラウド」でクラウドは新しい世代へ、パブリック、ハイブリッド以後の選択肢

2022年06月08日更新

企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に本腰を入れ、クラウドファーストという言葉が当たり前になるぐらいにクラウドコンピューティングが普及してきました。しかし、クラウドが広がることでその限界も見えてきました。そこで聞かれるようになったのが「分散クラウド」です。オンプレミス領域にクラウドが入ってきたと見ることもできる技術で、ガートナーの2022年注目トレンドにも選ばれています。

見えてきたパブリッククラウドの限界

クラウドコンピューティングは新しい技術ではありません。この分野大手のAmazon Web Services(AWS)の創業は2006年なので、既に16年前のことです。

それまでコンピューティングの選択肢といえば、自社にデータセンターを設けて、システム運用担当者が管理するオンプレミスやホスティングなどでした。そこで、自社でサーバーを立てることなく、運用管理も任せることができるというメリットを持つクラウドコンピューティングの登場は、大きなパラダイムシフトとなりました。

必要に応じて、簡単にサーバーやストレージのリソースを拡大できる拡張性などの優位性により、クラウド上には機械学習からデータベースまでさまざまな機能があり、日進月歩で拡充されていきます。クレジットカード番号を入力するだけでアクセスできる――開発者にとっては夢のような仕組みといえます。

これまでクラウドコンピューティングは、パブリッククラウド、パブリッククラウドと自社に構築したプライベートクラウドを組み合わせるハイブリッドクラウド、そして複数のパブリッククラウドを使い分けるマルチクラウド、とパブリッククラウドに軸足をおいた形で進化をしてきました。

しかし、パブリッククラウドは万能薬ではありません。規制の関係でデータを保存する場所が制限されていることもあれば、ネットワークなどを原因とする遅延が許されないアプリケーションもあります。データは量も種類も増える一方です。

特に、工場から自動車まであらゆるものがインターネットに接続するIoTでは、中央集約型のクラウドよりも、端末の近くにサーバーを設置してそこで処理を行うエッジコンピューティングに軍配があがります。

そこで注目されているのが、「分散クラウド」です。

コンテナ技術が鍵、分散クラウドはパブリッククラウドのメリットを引き継ぐ

分散クラウドとは、自社データセンターにあるサーバーの上でパブリッククラウド事業者のクラウドサービスを実行し、処理するモデルです。ここ数年注目されてきた「ハイブリッドクラウド」、すなわちオンプレミスのインフラ、プライベートクラウドサービス、パブリッククラウドサービスを混在させる環境では、自社内に構築したプライベートクラウドは自分たちで構築、設定、管理しなければなりません。

一方で、分散クラウドはパブリッククラウド事業者が運用管理に責任を持ちます。つまり、パブリッククラウドのメリットを損なうことなく、オンプレミスにクラウドを持ち込むことができるといえます。これを可能にしているのがコンテナ技術です。

調査会社のガートナーでは、分散クラウドを、パブリッククラウド事業者のクラウドを物理的拠点に分散できるものとし「クラウドで提供されるサービスの物理的な拠点が定義の一部に組み込んだという点で、初のクラウドモデル」と位置付けています。

分散クラウドでは、コンピューティング、ストレージ、ネットワーキングを備えるサブステーションを構築します。このサブステーションは、パブリッククラウドのアベイラビリティゾーンのようなものといえます。

分散クラウドにはさまざまなメリットがあります。データをローカルに保持しなければならないなどの規制順守やセキュリティ対策もありますし、低遅延をはじめ、ネットワーク障害対策としても期待できます。管理面では、分散されていてもサービスを一元的に管理できるので、例えば、煩雑なバージョンアップ時の作業を簡素化できます。

既に分散クラウドに向けた動きは始まっています。AWS、Microsoft Azure、Google、IBMなどのパブリッククラウド事業者はどこも分散クラウド製品を提供しています。ガートナーはクラウド事業者のクラウドデータセンターに加え「オンプレミス、エッジといったすべての物理的なロケーションを統合するクラウドの新しい形」として、今後上記に挙げたようなクラウド事業者間で競争が激しくなると予想しています。

クラウド業者

分散クラウドの用途は?

分散クラウドの用途にはどのようなものがあるのでしょうか。

ユーザーや端末の近くにサブステーションを置き、その数を増やすことで低遅延が要求されるAR/VR、ゲームなどのアプリケーションをスムーズに利用できるでしょう。コンテンツ配信ネットワーク(CDN)として実装されることで、Web上で提供するコンテンツのユーザー体験を改善できるでしょう。

また、監視カメラなど画像処理をAIや機械学習を用いて高速に行う際にも、その特徴が生きそうです。動画や画像の分析は、工場の現場や医療機関でも使われており、分散クラウドの出番と言えそうです。これを拡大して、建物や交通などさまざまなものが協調し合うスマートシティも分散クラウドの用途といえます。

もちろん、先述のようにGDPR(EU一般データ保護規則)など、ユーザーの個人情報に関する規制の遵守としても活用できます。

GDPR

分散クラウドは次世代クラウドコンピューティングの土台に

分散クラウドは比較的新しいモデルであり、今後さらに発展することが予想されます。ガートナーでは、当面はハイブリッドクラウドと同じような効果を狙って実装するケースが進むと予想しています。そこでは、サブステーションをオンプレミスにおく形となります。

次世代クラウドコンピューティング

さらに、その次の段階として、サブステーションの共有が進むと見ています。例として、公益、大学、市、通信事業者などがサブステーションを購入し、近くにいる企業や組織向けに開放することが考えられるといいます。これにより、「分散クラウドが、次世代のクラウドコンピューティングの土台になるという考えを確立する」とガートナーは見ています。「次世代のクラウドコンピューティングは、クラウドのサブステーションがあちこちにあるという前提条件になる」「さながらWiFiのホットスポットのように」とガートナーは付け加えています。

コンピューティングモデルはメインフレーム、クライアント/サーバー、クラウドという変遷の中で、集約型と分散型の間を行き来してきました。データ量は増加の一途を辿っています。データから洞察を得て活用するために、さまざまなコンピューティングモデルを使い分ける時代になりそうです。

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岡田陽子
ビジネスを変革するための企業のIT活用について、海外を含めて長年にわたって取材、執筆している。
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