Google Cloudでつくる新たなビジネス基盤、中古カメラの価格改定をAIが手掛ける
近年、Google Cloudを単なるストレージ空間ではなく、ITプラットフォームとして使う動きが急加速し始めました。事業に必要なセキュア環境と安定性を、自社の資源を使って構築するより、安価で早くできるところが注目されているようです。ビッグデータや機械学習における活用で、新たなビジネス基盤を作り、事業活動にイノベーションをもたらす方法で一定の成功を収める企業が次々と出始めています。
この記事ではこうした事例を紹介し、クラウド利用とAIを事業戦略に生かす方法を考えていきます。
中古カメラ・レンズの値決めを自動化
中古カメラ・レンズの買い取りと販売を手掛けるウェブサイト「Map Camera」を運営するシュッピンは、商品価格をタイムリーに自動設定するAIシステム「AIMD」を開発しました。ワンツーワンマーケティングと組み合わせることで、より多くの顧客に個別最適化した情報を適宜届けられるようになりました。
課題と動機
同社の取り扱うカメラ類は約2万品目にも及びます。これら多数の品目の価格改定にあたるのは4人の担当者で構成するチーム。販売実績や市場動向、経験も加味して価格設定に当たっています。
もちろん、他の業務も抱える4人が2万点余りの商品の価格を見直す作業は、簡単ではありません。時間もかかるため、これをタイムリーに実施することが長年の課題でした。AIMDが稼働した結果、同社の商品の価格改定回数は従来の6倍にも増えたといいます。その裏には、苦労があったそうです。AIMD開発のプロジェクト自体は2018年から取り掛かってきたものの、思うような結果は得られていなかったのです。
プロセス
AIMD開発プロジェクトは、従来思うような成果が上がらず、2度中断したことがあるそうです。価格を最終的な答えとするようなモデルでは、どうやらうまくいかないらしいことが分かってきたのです。3回目は、AIに価格を予測させるのをやめて、「この価格にしたら何個売れるのか」を予測させる方法にシフトしました。
そこで、開発支援システムにGoogle Cloudの「Auto ML Tables」を採用。2020年夏ごろから開発を開始します。同年3月1000品目を対象に本稼働をさせました。
ロジック紹介
AIMDに入力するデータとしては、過去の販売や買取価格データ、自社Webサイトからわかる検索回数など、顧客行動、他社の販売価格があります。これらのデータから、販売価格ごとに予想販売数を算出します。すべてをAIに任せず、異常な価格設定を行わないように、上限と下限を設定するのは人間のノウハウによります。
こうして、販売価格や予測個数をAIが算出します。既に分かっている買取価格や予測個数、在庫の変動や想定される粗利益を組み合わせ、人間が作業を行うよりかなり速いスピードで、最適な販売戦略を立てられるのです。
効果
シュッピンが2021年11月16日に実施した2022年3月期第2四半期決算説明会では、カメラ事業部門の利益が前年同月比147.5%の伸びを示したとの発表がありました。
決算ハイライトでは「売上高順調に推移し、営業利益も期初計画を大きく上回る」としています。「AIMD効果もあり」と前置きした上で、第2四半期単体で粗利率18%と高い水準であることを発表しています。コロナ禍で、リアル店舗よりECによる売り上げの割合が拡大しつつある中、AIによる販売戦略が顕著に功を奏した良い事例だと言えるでしょう。
今後の展開
今後シュッピンでは、専門店としての強みを生かすべく「AIコンテンツレコメンド」サービスの開始を計画しているといいます。これは顧客の検索履歴などから、探している商品の体験レポートなどのコンテンツを提示するサービスで、購買行動につなげようというものです。
こうした、Webの検索履歴をAIで分析することによるきめ細かい顧客に対するセールス活動もAIの役割になっていくのかもしれません。
AIで作業員のパフォーマンスを計測する
ボーイング787など旅客機の胴体パネルの組み立てを行っている三菱重工広島製作所江波工場では、Webカメラ映像と機械学習を組み合わせて計測と分析を自動化、Google Cloudを活用した作業員の生産性向上に取り組んでいます。
課題と動機
国土交通省のデータによると、2000年に入ってから順調に伸び始めた航空機の需要は、2013年から2033年の20年間においてアジア太平洋地域で年平均6.5%も伸びることが予想されていました。ところが、このコロナ禍で、旅行の需要が減ったため、2020年度前年比70%の落ち込みを見せるなど、航空機の需要は激減しました。コロナ禍までは航空旅客輸送は順調に伸び続けていたので、これが収まれば、需要はある程度戻るだろうというのが業界の見方です。
しかしながら、リモートワークやオンライン会議などの普及で、ビジネス上で人の移動が不要になってきたのも事実です。航空機の製造を手掛ける企業は、より一層の生産性向上に取り組むことが課題となっていました。
需要が落ち込んだ今だからこそ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実施し、業界が「リセット」され、需要が回復したら顧客に注目してほしいというわけです。
航空機の胴体パネルの組み立ては、人手に依存した「労働集約型の産業」だといいます。自動車のように大量に生産するものではないため、完全に自動化することがよいわけではありません。
このような特性があるため、人手による作業をいかに効率良くするかが、生産性向上のカギとなります。観測員が作業員のパフォーマンスを計測し、無駄な動作があれば作業員にフィードバックして改善していくわけですが、この計測は観測員が行い、データを入力して分析し、フィードバックするまでに14日ほどかかっていました。
生産性を向上させるには、できればリアルタイムでのフィードバックがベストです。そこで、観測からフィードバックまでのプロセスをWebカメラとAIで行い、時間短縮を試みたのです。
プロセス
時間短縮の方法として、プラットフォームにGoogle CloudのVertex AIを活用し、Webカメラで作業員の映像を撮影して生産性を表すOPE(Overall Production Effectiveness)を算出するシステムを構築することにしました。
ロジック紹介
まず、Webカメラの映像から、AutoML Visionで構築した物体識別モデルによって複数の作業員の動きが検知されます。検知した作業員の動きはAutoML Vision Video Intelligence Object Trackingの機能で追跡が開始され、途切れることなく取得できます。
この動きにたいしてAIを使います。工具を持って作業しているならば「付加価値を生む作業」。組み立て対象から離れ、何かを探す動作をしているときは「付加価値を生まない作業」として認識。あらかじめAIに学習させた内容から判別します。
これをリアルタイムに行って、時系列で作業工数の推移、作業時間のグラフなど12種類ほどのデータが出力されます。これをもとに翌日には、フィードバックとして課題を改善すべく相談することができるようになりました。
効果
従来は、生産性向上のためのフィードバックをするために、観測員が張り付いて観測を実施し、さらに分析に14日間もかけていました。しかし、このシステムの導入によって、Webカメラによってリアルタイムでデータ収集が行われ、翌日にはフィードバックできるようになったのです。
これらのシステムによって現場にフィードバックされた情報は、さらに次のデータ集積へとつながり、よりよいデータ活用の好循環がつくられます。
また、開発にかかる工数の面でも有利でした。Vertex AIは少ないサンプル数でも高精度なAIモデルを作成できるので、生産数の少ない航空機業界でも開発できるといいます。AI未経験の技術者でも短時間で構築できた点も、効果の1つとして挙げられます。
今後の展開
このシステムは、従業員の動作を監視するようで、なにかと誤解を生むため、当初説明には苦労したそうです。
しかし、今では現場の職人の匠の技を形式知化して受け継いでいくことに活用できることと、集積された「生産性が高い動作」というもののデータを技術者教育などに反映させていくことのメリットが理解され、むしろモチベーションの向上に役立っているといいます。
今後は、品質低下の原因となる、切削の際に出る残置切粉の監視にこのシステムを応用したり、作業開始前の点検にGoogle Workspaceを導入したりするなど、Google Cloud活用の範囲はさらに広がっていきそうです。
AIの幅広い利用にクラウド基盤が必要に
Google Cloudをプラットフォームに利用したAI活用は、開発期間の短縮化が実現できるため、予想以上のスピードで進展しています。Google Cloudが実施した調査で、企業がAIを利用した技術にどのくらい投資しているかが見えてきました。世界的に、メーカーはIT支出全体の36%をAIに割り当て、また、メーカーの4分の1はIT支出の半分以上をAIに投資していていることが分かっています。
メーカーはIT支出全体の36%をAIに。日本は最低の33%にとどまる。(出典:Google Cloud調査)
AIは特定の業界にとどまらず、あらゆる業種で使われようとしています。従業員の経験値や蓄積してきたデータをどのように活用していくのか、的確に導く知恵が求められている中で、Google Cloudのようなクラウド基盤の活用が鍵を握ります。
誰でも簡単に
「社内外のデータ収集」と
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AirLakeは、データ活用の機会と効果を拡張する
ノーコードクラウドデータプラットフォームです。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。