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DX人材不足を解消する「リスキリング」、経済産業省や企業にとって大切な次の一手

2022年06月14日更新

近年、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、IT人材・デジタル人材などの「DX人材」が不足していることが大きな課題になっています。さらに、社内に新しい技術の導入を主体的に行う「リーダー的」な存在だけでなく、それを扱う従業員も一定水準以上の知識や技術が求められています。

しかし、テクノロジーに関する知識だけでなく、自社のビジネスにも精通している人材となると、確保するハードルは非常に高くなるでしょう。そこで、最近特に注目を集めているのが「リスキリング」というキーワードです。自社に合った人材を、セミナーや研修などを通じて再教育し、DX人材に育てようという取り組みです。

DXに取り組む企業だけでなく、経済産業省などの国も相まって、リスキリングを次の大切な一手ととらえています。そこで今回は、リスキリングがどのようなものか具体的な事例を踏まえて紹介します。

リスキリングとは何か

リスキリングを英語で表記すると「Reskilling」であり、今後の業務遂行に必要な能力・技術・知識などを学び直すことです。人材の再教育・再開発の取り組みでもあり、近年、多くの企業が関心を持ち始めています。リスキリングは企業側が主体となり、今後求められる能力を身に付けるために研修などを実施するケースが多いです。DX推進など特定の目的を果たすために既存の人材を再教育します。外部からDX人材を確保するよりも、自社のビジネスについても知識があるため、スムーズにDXを進められるでしょう、

リスキリングに似た言葉に「リカレント」がありますが、学習の主体がどちらにあるかに大きな違いがあります。リカレントは、労働者が主体となって自分のライフスタイルに合った働き方ができるように学び直す手段として使われます。

リスキリングが注目される背景

経済産業省 第3回デジタル時代の人材政策に関する検討会

資料:経済産業省 第3回デジタル時代の人材政策に関する検討会

リスキリングが注目される大きなきっかけになったのが、企業によるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。さらにコロナ禍によるリモートワークの急速な普及が拍車を掛けました。デジタル技術を活用した働き方が、半ば強制的に求められるようになったのです。DXによる変革は既存の仕事を単に効率化するだけでなく、仕事そのものを変えるケースも珍しくありません。アメリカで、新たな配車サービスであるUBERがタクシー業界のビジネスを「破壊(ディスラプト)」したことが、数年前から話題に挙がっています。

このようにDXを推進する企業は増えていますが、それを実現できる人材が根本的に不足していることが課題です。企業内でDXを推進するためには、リーダー的な人材の確保だけでなく、従業員全体の知識レベルを高める必要があります。

また、デジタル技術を有効活用して利益を上げていくためにも、やはり専門的な知識・技術が求められます。AI・IoT・ロボティクスなど先進技術を活用することでビジネスの幅は大きく広がっていくでしょう。

リスキリングは、経済産業省など官公庁も注目しています。日本国内のDXを推進する担い手としてのデジタル人材の重要性を踏まえ、その育成を促進する取り組みを行っています。そして、令和2年度から「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を開催しています。今後のデジタル人材の育成に必要な取り組みとして、次の3つの方向性を示しています。

  • 企業・組織内のリスキリングの促進
  • 企業・組織外における実践的な学びの場の創出
  • 能力・スキルの見える化

また、国としてはDXの推進を支える人材育成のため「デジタル人材育成プラットフォーム」の整備を進めるとともに、DX成功例の創出や人材育成を進めるDXプロジェクトを実施する予定です。

さらに具体的な制度も設けています。IT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野において、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」です。AI、IoT、データサイエンス、クラウド、高度なセキュリティやネットワーク、自動運転などを認定対象分野として挙げています。

認定講座全体に占める対象分野の割合

資料:経済産業省 第四次産業革命スキル習得講座認定制度の説明資料

国としてもDX人材の確保は難しい問題であると捉えており、リスキリングによる人材確保が有効としています。DX時代において人的資源戦略を進めるために、リスキリングの必要性が高まっているのです。

リスキリングのメリット

リスキリングを有効活用することで、企業にとって大きなメリットをもたらします。自社でリスキリングを実施する際は、どのようなメリットがあるのか押さえておきましょう。

新しい価値・アイデアの創出

リスキリングにより、従業員の知識・技術レベルが向上すれば、今までにないアイデアなどが生まれやすくなります。従業員のできることが増えることで、新規事業や売り上げアップにつながる戦略を思い付きやすくなるでしょう。

業務の効率化

新しく習得した知識や技術を発揮することで、業務の効率化を図れます。仕事に対する負荷を削減することで、コストや残業時間の削減などにつながるでしょう。例えば、今まで知識や技術の不足により扱えなかったツールを利用できるようになります。業務を自動化するツールであれば、コストを抑えるだけでなく売り上げアップを実現し、利益を出しやすくなります。

リスキリングに取り組む企業

リスキリングを実施している企業を、事例としていくつか紹介します。

リスキリング事例:富士通

富士通は経営戦略として「ITカンパニーからDXカンパニーへ」という方針を打ち出しています。顧客に価値を提供するビジネスプロデューサーの見直しがされており、その役割を果たすためにリスキリングが進んでいます。リスキリングの目的として「DX実現に向けた知識を身に付け、戦略を立てる人材を育成すること」だと説明します。主な実施内容は次の通りです。

  • 導入編として座学を通じたマーケット分析
  • DX構想策定力の養成
  • デザイン思考などの学習

その他にも、顧客のDXプロジェクトに参画した実践的なスキルの習得も組み入れています。

リスキリング事例:日立製作所

日立製作所は2020年に、国内の全従業員を対象にDXの基礎教育を実施しました。日立製作所では、DXを単なるデジタル化ではなく、「デジタル技術を使って業務や組織を変革すること」と捉えています。

今まで、さまざまなデジタルスキルを高めるためのプログラムを開発しており、デジタル関連の学習プログラムは約100コースもあります。データサイエンティストやセキュリティスペシャリストなどのエキスパートにも対応しており、必要な講座を受講しながらスキルレベルを高められます。

リスキリングを実施する際の注意点

リスキリングの実施は、企業にとって大きなメリットがあります。しかし、適切に実施しなければ期待していた効果を得られません。例えば、社内で従業員を対象にした研修を行う際には、目的や目標を明確にして伝える必要があります。研修を実施しても「何の役に立つか分からない」と思う場合は、モチベーションの低下にもつながるでしょう。
また、比較的規模が大きいプロジェクトになると、従業員全員に研修が必要なケースもあります。この場合、リスキリングに時間がかかるだけなく、費用も大きくなってしまうでしょう。

リスキリングを実施する際の注意点

リスキリングの目的を設定したい

リスキリングは自社の人材を再教育することで、DX推進などの目的を果たしやすくなります。また、リスキリングにより社員の能力が高くなれば、新しい事業や戦略のアイデアが出やすくなったり、業務効率が高まったりするなどのメリットも得られるでしょう。

しかし、何のためにリスキリングを実施するのか、目的・目標を明確に設定する必要があります。従業員が目的も分からずに研修などを受けることになれば、モチベーションの低下につながってしまうからです。また、全従業員にリスキリングを実施する場合、コストや時間が大きくなってしまうことも注意点です。

リスキリングがどのようなものか、メリットとデメリットだけでなく、実際に実施している企業の事例を参考にしながら、取り組むことがポイントになってきます。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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