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ECの秩序が乱れる? 世界に広がる「D2C」の衝撃

2022年06月16日更新

電子商取引:EC(Electronic Commerce)が始まってから20年以上が経過しました。インターネットの発展とともに主要なEC企業はいまや世界中の富を集める巨大企業となっています。そのような中、従来のECが持つショッピングモール型ビジネスモデルの意表を突く形態が出現しています。それがD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる形態です。

D2CにはITベンチャー企業ではなく大手メーカーが参入しています。米スポーツメーカーのナイキがその一例です。生産者が直接消費者に販売するECはこれまでもありましたが、D2CはこれまでのECと何が違うのでしょうか。

この記事では、D2Cとはなにか、その事例とメリット、注意点を解説し、これからのECはどうなっていくのかについて考えます。

D2Cとは

D2Cは「Direct to Consumer」(顧客と直接やりとりする)という意味です。ECにおいてはこれまでにも存在した形ではあります。

ただ、今日あえて“D2C”という言葉を使うときは、次のような特徴を持った取引を言います。

販売者の思いを顧客に伝えコンセプトに共感してもらうマーケティング戦略
直接顧客から収集したデータと最新の技術で購買活動を最適化している
中間コストやマーケティング調査コストが軽減された結果、低価格化が実現している

D2Cではまず、商品そのものの魅力と顧客体験を合わせたものを価値観として提供していきます。その商品を使ったらどうなるかをイメージできるように仕組みます。これにはSNSなどを通じた情報発信が用いられることが多く、どのような発想でその商品が作られたかを広く知ってもらって、ファンづくりをしていくことが前提となっています。

次に、直接顧客から、使用感などの感想や各種の数値などのデータを収集して、データ分析基盤によってどんな顧客がどれくらいいるのかを知ることができるということが特徴です。コンサルタントによる大がかりなマーケティング調査をすることなく最適な販売プロセスを構築していくことができます。

そして、マーケティング調査にかかる費用やショッピングモールなどへ支払うテナント料がなくなることで、商品を安く提供できるようになったことが挙げられます。

このように、これまでの常識とは違う、テクノロジーを活用した新しいECの形態であるともいえるでしょう。

D2Cのメリットと注意点

D2Cは、顧客にとっても新しい購入体験ができるので新鮮味があります。その商品の作り手の思いを直接伝えることから、自分が求めて直接視聴した情報が明確に心に刻まれるため、購買動機をより確かなものにすることができます。

顧客の声を商品開発に生かすサイクルを早めることができるようになり、より的確なリコメンドが早いサイクルでできるようになりました。そして中間コストを除いた安い価格で提供できるようになったことは、顧客にとっても朗報で、シェア獲得に大きく貢献するでしょう。

注意点としては、現在のところ成功事例がアメリカのものであることで、日本では広がる兆しが見えていないことです。企業文化の違いや起業家マインドを持つ人口の違いにもよるのでしょう。

しかしながら、消費者が行っていた常識的購買プロセスを大きく変える方法であることには変わりありません。これまで顧客は、年齢や性別などのあらかじめ設定された「層」に向けて作られたものの中から、一番自分に合うものを選ばざるを得ませんでした。

D2Cが普及した時代には、個人に向けてカスタマイズした商品が届けられるようになってくるでしょう。

D2Cにおけるデータ活用

キャスパー・スリープ

キャスパー・スリープ

D2Cの好事例として挙げられている2014年に創業したアメリカの企業「キャスパースリープ」(キャスパー)は、マットレスなどの寝具を販売しています。それまで、マットレス業界では最大手だった「マットレスファーム」はキャスパーにシェアを奪われて一時期破産のうわさがたつほどでした。

キャスパーは、データ分析技術を積極的に商品開発に生かしていることでも知られています。同社は1万5000人以上のモニターから専用のセンサーを使いデータを収集。これを専門部隊によって分析、睡眠の質の改善方法を科学的に検証し、商品に反映しました。

業界最大手のマットレスファームを追い抜いたキャスパーは2019年にユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の仲間入りを果たしています。

ナイキのデータ活用事例

Nike D2C事例

アメリカのスポーツ用品大手のナイキは、自らをD2Cの開拓者であるとして前進を続けています。D2Cへ注力していく流れの中で、2019年11月、Amazonでの販売から撤退を発表し、話題になりました。

ナイキのブランドの全売上高の中でD2Cが占める割合は2021年、39%に達しました。10年前に16%であったことから考えると2.4倍あまりです。2025年までにD2Cでの売り上げは全売上高の5割を超える見込みだといいます。

ナイキは「一貫した顧客体験」を提供したいという方針を持っています。そこで、顧客とのつながりを強化するために、従来の流通ルートを自前で行うよう変えつつあります。それは、単純にテクノロジーを利用するということだけではなく、D2Cをより有効で確かなものにするために、物流やデータ分析にも投資をし、スタートアップ企業の買収などまでしているのです。

ナイキは従前からメインの販促アプリである「Nike+」を持っていましたが、実店舗内で靴のサイズや試着室をリクエストできたり、特別価格の商品を購入できたり、さらにはレジに並ぶことなく精算ができる機能を追加したりしてきました。

このようなモバイルアプリの機能が顧客のロイヤリティを向上させることが分かってきたため、さらなるアプリの活用が広がってきました。ナイキはメインアプリ「Nike+」の他、トレーニング用のアプリである「Nike Training Club」や「Nike Run Club」などをリリースしており、フィットネスに熱心なファンのユーザー体験を向上させてきました。

こうしたユーザー体験の向上を目指す延長線上にD2Cの道筋が出てきました。メーカー自身が顧客のニーズを直接かつ大量にゲットできるようになったのです。さらに集めたデータを分析、商品開発に反映させれば、もっと顧客体験を向上させることができるということに気が付きました。

こうして、ナイキは、自ら作る商品の販売について、マーケティングコンサルタントや広告業者、卸売業者への依存をやめ、さらにAmazonでの販売すらやめてダイレクトに顧客とやり取りする方向に大きくかじを切っているのです。

日本国内D2C企業の事例

男性用化粧品メーカーの「BULK HOMME」(株式会社バルクオム)は、日本でのD2C事例として著名な存在です。「メンズビューティー」という新たな価値観を確立させるという理念のもと、設立以来急成長を遂げてきました。

2013年に創業、オンラインストアのほか、全国1,000店舗以上の小売店を持ち、台湾、韓国、中国などアジア諸国にも展開してきました。その巧みな経営手法は国内のマーケティング専門家から注目されています。

バルクオムの例はアメリカのナイキやキャスパーのような顧客体験をデータで分析してさらに向上させるというサイクルとは少し違うようです。

「大手のガリバー企業がないメンズビューティー部門で世界一になる」という強いパッションの基で事業を進捗させてきた同社はあえて、大手化粧品会社と戦わない戦略を採ってきました。経営者のセンスや熱意が結果に結び付いたと強調されることが多いようです。

スポーツ用品、マットレスなどと共通するのは「直接身につける」ものであるところです。D2C向きの事業は、まさにそういう業界と言えるでしょう。データの収集から分析、さらなるユーザー体験の向上というサイクルが実現できるようになれば、同社もさらなる飛躍を遂げることができると考えられます。

ECとD2Cはこれからどうなっていくのか

Web3.0の世界がやってきていることがささやかれ始めています。Web3.0の世界ではAmazonなどが支配するEC界の秩序が崩れ始める兆しが見えます。

顧客と作り手のダイレクトな取引が広がり、各種中間コストが削減されていく世界に生まれる新しいビジネスチャンス。それは、賢くデータを活用していく手法を手に入れた人に訪れるに違いありません。

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鬼尾宗慶
ITをはじめとする、各種ビジネス分野のライター。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。
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