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各業界で続々登場。AIで急加速する生産性 ~経験と知識・既知のデータ活用がカギ~

2022年04月19日更新

2021年は、日本中の各業界でAIを利用した業務システムの開発が急加速しました。日本企業は今、国の方針でもある「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の実施に業種を問わず取り組んでいます。そこでは、これまで積み上げてきたデータや長年の経験知をAIに載せ、どのように活用していくのかという、いわば「工夫合戦」が始まっています。

この記事では、AI活用によって新たなる生産性向上の窓を開いた各企業の事例を紹介していきます。

SRSホールディングス 厨房の下膳場、無人化も目前に

和食レストランチェーン大手のSRSホールディングスでは、食洗のAI化がすすんでいます。既に2021年春から新規開店する店舗に、AI搭載のロボット食洗システムを導入しています。決められたエリアに食器を置くと、3次元カメラがそれを認識し、ロボットアームが予洗い場へ、続いて食洗器へ順番に移し、最後は収納まで行うというものです。

和食の場合は基本的に料理の品数が多くなり、食器の形や種類もさまざまなため、食洗器があっても、どうしても食器洗いに人手がかかるのがネックとなっていました。

このシステムは食器を3次元カメラで認識し、「どんぶり」「おわん」などを区別し、AIで持つべき場所を推定します。ロボットアームは吸盤で吸着させて、次の場所へと移動させるわけです。

AIが食器の種類を判別して持つべき場所を決めています。この機械学習ではCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)、コンピューターが外部の物体を検出する際に用いるアルゴリズムであるYOLO(You Only Look Once)、 GAN(Generative Adversarial Network“敵対的生成ネットワーク”)といった画像生成AIアルゴリズムを駆使しています。人間なら何気なくできる行為ですが、それをコンピュータで実施するべく、最先端の技術を惜しげもなく盛り込んでいます。

動作スピードは人間に劣るというものの、現場で使うには十分のようです。新店舗で今後半年間効果を見極め、システムやオペレーションを改善して、いずれ全店舗に展開していく予定だとしています。

オルビス 5~20年後の肌の状態を予測するAIアプリ 通販でも深い顧客情報収集が可能に

オルビス 5~20年後の肌の状態を予測するAIアプリ 通販でも深い顧客情報収集が可能に

(画像出典:オルビス株式会社)

化粧品、栄養補助食品、ボディウェアの企画・開発と販売を手掛けるオルビス株式会社は、2020年12月からAIを使用した肌状態の未来シミュレーションをスマートフォンのアプリで提供しています。これは顧客がアプリで12の質問に答え、自分の顔写真を撮影すると5~20年後の顔のシミュレーション結果を表示するというものです。

同社は2017年2月から化粧品の通販やポイントの管理などができるアプリの提供をしていますが、ネット通販では顧客の肌の状態などのデータが得られにくい状況がありました。そこで、アプリを経由した顧客とのつながりを、AIによる肌状態の診断に託したのです。

このAIでは、「くま」「シワ」「たるみ」「シミ」「毛穴」「くすみ」といった肌の要素ごとに機械学習モデルを作成しました。「くま」であれば「くま」のある顔と、ない顔を学習させて、くまの有無を判別するモデルを作成するという具合です。

作成された複数のモデルと顧客への質問で得られた答えを計算し、5年後~20年後の肌情報を生成します。見た人の納得感の問題もありますので、同社の美容理論の専門家が出した意見をモデルのパラメーターに反映させています。

コロナ禍でリアル店舗に訪れる顧客との対面接客は困難になっていますが、このAIによるシミュレーションは実店舗でも行っています。通販に移行しつつあるとはいえ、美容部員と顧客との接点をなくさないばかりか、これを契機にアプリで収集したデータをもとに美容部員の接客効果を向上させる考えがあるそうです。

フジタ 油圧ショベルの自動操作をするAIが建設業界の人手不足を救う

建設・開発関係の大手、株式会社フジタでは、AIで油圧ショベルを自動操作することに挑戦しています。走行から掘削、土砂の積み込みまでできるよう実証実験を行う計画です。

建設業界は人手不足が最も問題になっている業界の1つ。油圧ショベルの操作も熟練の技が必要とあって、これを「機械がメインで人が補助する」という形を作るべく、2017年からAIを利用した油圧ショベル操作の開発に注力してきました。

これは油圧ショベルの運転席に遠隔操縦装置を取り付けてリモコンで運転するのですが、アームやバケットの関節角度をカメラでとらえ、それを動かす経路はAIが決めてレバーを自動で動かし操作するものです。

困難を極めるのは「掘削」。関節やアームの経路を決めるのは、実際に掘って土の状態を見ながら、ということになります。これを行うためにAIにはさまざまな土の状態による掘削パターンを数多く学習させる必要があるため、実際の建設現場でそれを行うのには限界があるということでした。

そこで、いろいろな土の状態を再現する掘削シミュレーターを独自に開発。これを走らせることで学習を強化しました。

完全な自動化は10年以内が目標ですが、まずはできるところから始めるとのこと。この装置は既存の重機に後付けができるため、展開がしやすくなっています。その後はほかの重機にも広げていく計画だそうです。

日本製鉄が30年越しの夢、高炉の最適オペレーションがAIの指示で

日本製鉄では、高炉の最適オペレーションをAIで行う取り組みを実施。室蘭製鉄所・第2高炉で初めてAIを用いた炉内状況予測システムを導入しました。

この高炉は、改修のために操業を停止していましたが、2020年11月に再稼働しました。これを機に、「職人技」の世界だった原料の投入と送風の量など、最適なオペレーションのコツをAIが現場に提示して支援します。これにより操業が安定的になり業務の負担が軽減されます。

高炉とは原料の鉄鉱石を高温で還元し、銑鉄を取り出す炉のことです。内部の温度は2200度を超え、状況の把握は難しいといわれてきました。炉内の状況は高炉の外壁に取り付けた圧力計などの情報から推測しているにすぎず、この情報から原料の投入量などを調節するのです。判断は経験に頼ることとなり職人技の世界になっていました。

こうした熟練のオペレーターは少なくなりつつあり、いつまでも職人技に頼ってはいられないという事情があります。

そこで、高炉の外部に約1000個のセンサーを取り付けて、そこから得られる情報をもとに、最適な操業オペレーションを判断できるような仕組みをつくりました。生産プロセスとルールに沿ったアルゴリズムを基本にし、センサーから得られる情報をもとにした機械学習モデルを用いて分析します。

また、風量調整をした後の炉内の状況をシミュレーションするモデルも組み合わせました。風量を調整した影響が出るのは数時間後なので予測する必要があるからです。

ルールベースの自動制御システムは30年以上前から考えられ、開発が試みられてきたのですが、複雑な生産プロセスのため「ルールを変更するのに手間がかかって定着しなかった」そうです。

ところが2010年ごろからIoT技術が進展し始め、センサーで高炉の状態を把握する技術が進んだためデジタル化への道が開けてきました。

高炉というものは熟練工が捜査しても数年に1回は大きなトラブルに見舞われていたのだそうで、今回のAIの導入でこうしたトラブルが減るのに加え、オペレーターの負担も軽減されるとみられています。

今後は、名古屋をはじめほかの製鉄所にも順次展開していく予定だそうです。

ライオン 熟練者の感性をAIに。香料の開発期間を半減

オーラルケア製品で知られるライオンはスタートアップのLIGHTzと協業し、歯磨き剤向けの香料の処方(レシピ)を生成するAIを開発しました。

ライオンでは5000種類以上の香料の中からいくつかを選んで調合し、その商品のコンセプトにあった味や香りの歯磨きを開発しています。これまで、フレーバリストと呼ばれる10人の香料開発技術者が試行錯誤しながら調合を決めていました。

こうして決められてきた各原料の調合割合を「レシピ」と呼びますが、AIを活用することで香料の開発期間を半減できたということです。それまでは熟練のフレーバリストでも1つのレシピを開発するのには数か月はかかっていました。

香料の開発は「骨子」の開発と目標の香味を目指してさらに調整する「最適化」というプロセスがあります。今回時間短縮に成功したのはこの「骨子」の開発プロセスになります。

AIは、まずライオンが持つ材料の特徴が記録されたデータベースと、これまで作ってきたレシピのデータベースを検索し、入力された新商品のコンセプトを加えます。

内部のロジックとしては、熟練のフレーバリストがもつ考え方と判断の仕方を参考に、自然言語処理と言葉のつながりで構成される意味ネットワークであるオントロジーを組み合わせた機械学習モデルが使われています。

学習モデルの作成には熟練のフレーバリストに100時間を超えるヒアリングを実施したのだそうです。効果としては骨子の開発時間が短くできたのに加え、とても人間が思いつかないような組み合わせを勧めてくることがあるそうです。

例えば、華やかさを香りで表現したいときに、普通は花を使うのが定石なのですが、AIはあるハーブを進めてきました。それを使ってみたところ、意外にも目標に近づいたのだそうです。

これらの事例のほか、眼科の手術を年間8000例余りも実施している三栄会ツカザキ病院(兵庫県姫路市)では、手術する目の左右の取り違えがないように判別するAIを全手術で導入しました。レントゲン画像の読影サービスにAIを使ったスタートアップ企業も登場し、注目を集めています。このように、医療の世界でも盛んにAIが活用され始めました。

私たちがこれまで培ってきた知識、蓄積してきたデータも、使いようによっては長年解決できなかった問題を解決したり、飛躍的に世の中を進化させたりできるかもしれない時代がやってきました。AIでどのように持っているデータ資源を活用すれば、飛躍的な効果が得られるのか、考え方は無限に広がっています。

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鬼尾宗慶
ITをはじめとする、各種ビジネス分野のライター。
SEやビジネスマンとしての30年にわたる経験に最新の知見を組み合わせて、各種Webメディアで執筆活動をしている。
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