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アジャイル開発は経営手法へと昇華、気になる日本における導入の遅さ

2022年06月27日更新

近年、アジャイル型のシステム開発手法が注目されています。「アジャイル」とは速いことを表現する言葉であり、従来の開発手法であるウォーターフォール開発よりも速いサイクルで進めることができます。今回はアジャイル開発の基本的な概念を始めとして、近年広がりつつある背景、日本における現状について解説します。

アジャイル開発の特徴と強み

アジャイル開発はシステム開発手法の1つであり、要件定義、開発、テスト、リリースを短期間で繰り返して都度改善していくことが最大の特徴です。早い段階で一部の機能がリリースされるため、ユーザーの反応を捉えながら次の開発サイクルに入ることができます。開発を繰り返す中で都度テストを行うため、開発した機能が顧客要望から外れるリスクを早い段階で検知し、軌道修正することができるのです。

途中で変更が発生することを前提として開発が進められるため、消費者の動向をデータで把握しながら、トレンドに素早くキャッチアップするようなケースでは、アジャイル開発が適しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)のように、変革のために要件を模索しながら進めるようなアプリケーション開発にも向いていると言えます。

Agile vs Waterfall

一方、一般的なウォーターフォール開発では、プロジェクトの開始段階でシステムの全体像を詳細まで決めて開発を進めます。そのため顧客となるユーザーがシステムを初めて試行するのが、プロジェクトの終盤に差し掛かるタイミングになります。

もし、プロジェクトの終了間際に「顧客ニーズに合わない」といった事実が発覚してしまうと、要件定義からやり直すこともできず、取り返しがつかない事態になることもあります。落ちた滝の水が元に戻らないように、基本的には工程を後戻りさせることはありません。

『アジャイル開発実践ガイドブック』の提示

的確に市場のニーズを反映し、早期に軌道修正ができること以外にも強みがあります。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が2021年に公表した『アジャイル開発実践ガイドブック』の中で、以下の要素が挙げられています。

  • 協働を育み、チームの機能性を高める
  • チームの学習効果が高い
  • 開発のリズムが整えられる

出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「アジャイル開発実践ガイドブック」より

上記から、アジャイル方式がチームワークの観点でも良い効果をもたらすことがわかります。アジャイル開発では「スクラム」というチームを組んで個別の開発サイクルを回します。スクラムは毎日定期的にコミュニケーションを行い、チームの価値観と方向性を共有することを重視する考え方です。また、ウォーターフォール開発と異なり、要件定義からテストまでのサイクルを同じメンバーで担当するためチームワークが醸成されやすいというメリットがあります。

もちろん、従来広く採用されてきたウォーターフォール開発が、依然として適しているケースもあります。例えば、既存システムを更改する場合です。旧システムを更改する場合は仕様が大きく変わることがないため、ウォーターフォール開発が選択されるケースが多いと言えます。

また、金融系システムなどで、仕様が明確に決まっているミッションクリティカルなアプリケーションも、緻密なテストによる正確性の担保という意味で、ウオーターフォールモデルが適していると言えるでしょう。

なぜアジャイル開発が主流となりつつあるのか

コロナ禍において世界的に企業のデジタル化への取り組みが加速し、働き方もデジタル化を前提としたものに変わりつつあります。その中で注目すべきなのは、アジャイル方式を採用する事例が増えていることです。

Digital.aiが主催したアンケート「State of Agile Report」の結果によると、システム開発の中で占めるアジャイル開発の割合が、2020年から2021年の1年間で37%から84%に増加しています。

背景としては、あらゆる業界においてデジタル化を見据えたビジネスが活況を呈していることが考えられるでしょう。例えば、小売やアパレルの業界では店舗における売上拡大路線からECサイトの充実に舵を切るケースが多く見られます。

ECサイトはまさにB to Cのビジネスであり、変わりゆく消費者のニーズをタイムリーに捉えて、収集したデータを有効活用できるように改善していく必要があります。小売・アパレル業界でのECサイト開発はアジャイル方式の得意分野といえるでしょう。また、小売・アパレル以外の業界においても、従来は対面で実施していた業務をオンライン上で行う必要に迫られるケースが多いため、これまでより短い期間でシステムを完成させ、変化に適応しなければなりません。

あらゆるビジネスがデジタル技術の活用を前提として行われる中で、最適なシステム開発手法を選択できるかどうかが、ITの分野を超えた経営課題となりつつあるのです。実際にGAFAの一角であるAmazonでは、社内に3300ものスクラム(アジャイル開発手法の1つ)チームを立ち上げ、2022年には広い分野で展開されます。Amazonの事例で特筆すべきなのは、アジャイル開発を単なるシステム開発の手段ではなく、チームワークの強化や組織力の向上につなげるための方法論とみなしている点です。今後もアジャイル開発が組織マネジメントの手法として広く採用されていくと見込まれています。

鈍い日本国内の動き

日本でのアジャイル開発の現状はどうなっているのでしょうか。ガートナージャパンが発表した「日本国内におけるアプリケーション開発 (AD) に関する調査結果」によると、アジャイル型を採用する日本企業は15%との結果が出ています。ウォーターフォール型を採用する企業が27%であることを考慮すると低い数値であることがわかるでしょう。

日本国内におけるアプリケーション開発 (AD) に関する調査結果

出典: ガートナージャパン「日本国内におけるアプリケーション開発 (AD) に関する調査結果」より

なぜ日本ではアジャイル開発が広がらないのでしょうか。まず大きな理由として考えられるのが日本の企業文化です。一般的な日本企業で大きなプロジェクトを行う際には、入念な計画を立てた上で、経営層の決裁を仰ぎます。一度決裁を得たプロジェクトについては、大幅な変更が認められないケースが多いため、仕様変更を前提とするアジャイル開発よりも、ウォーターフォール開発が好まれるのは自然な流れといえるでしょう。

アジャイル開発の広がりを妨げる大きな要因は他にもあります。それは日本企業におけるIT人材の不足です。日本企業が行うシステム開発は、システムインテグレーター(SIer)と呼ばれるベンダー企業に委託することが多く、IT部門が主導してシステム開発を進めるケースは少ないといえます。

実際、アメリカのIT人材の65%がユーザー企業に所属しているのに対し、日本のIT人材がベンダー企業に所属している割合は72%です。アジャイル開発ではビジネス面での変化や課題を迅速に取り入れる必要があるため、ユーザー企業の中にもシステム開発の知見を持った人材が求められます。また、コミュニケーションや組織力を重視されるアジャイル開発の現場では、ユーザー企業の社員が主体的にプロジェクトを推進する必要があるため、ベンダー企業に依存した体制ではアジャイル開発を採用することは不可能といえるでしょう。

平成30年版 情報通信白書

出典:総務省「平成30年版 情報通信白書」より

しかし、一部の企業ではアジャイル開発を積極的に取り入れる動きが見られます。日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車では、車載ソフトウェアの開発にアジャイル型の手法を取り入れているのです。自動車の開発には通常3年から4年の歳月を要しますが、そのスケジュールに合わせて車載ソフトの開発を行うと、リリースされる頃にはニーズにそぐわないソフトが出来上がるリスクがあります。そこでアジャイル型の開発手法を採用し、変更を迅速に反映できる仕組みを整えました。その結果、生産性が大幅に向上し、開発のスピードアップにつながったのです。

近年は日本においても、ユーザー企業がIT人材の採用に力を入れるなど、アジャイル開発の広がりに期待できる環境ができつつあります。今後は日本企業においても、経営課題を解決する一つの手段として、アジャイル開発が認識されていくでしょう。

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友永慎哉
基幹系のシステム開発を経験後、企業ITの取材、執筆に従事。企業経営へのIT活用の知識と経験を軸に、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。
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