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2022年のAIはどうなる?「State of AI Report」の提言から展望する

2022年03月31日更新

AI(人工知能)という言葉を見ない日はないぐらい、その存在が身近になりつつあるのがAIです。とはいえ、AIはまだまだ発展途上の技術です。しかも一口にAIと言っても、その中身は細かく区分されます。日々進展するAI分野に何が起こっているのか――AIについての年次報告書『State of AI Report 2021』からいくつかピックアップします。

2022年のAIはどうなる?

State of AI Reportは、AI投資家のNathan Benaich氏とIan Hogarth氏が共同作成するレポートで、技術者や研究者、投資家などがAIの方向性や最新動向を探るのに役立っています。最新版となる2021年版は2021年10月に公開されています。リサーチ、人材、インダストリー、政策、予言の4セクションで構成され188ページというボリュームになっています。

執筆者の2人

(執筆者の2人)

まずはレポートが立てている8つの予言を紹介しましょう。

  1. ディープラーニング(深層)学習における大前提であるモデル「トランスフォーマー(Transformer)」が回帰ネットワークに代わって使われるようになる。
  2. オランダの半導体メーカーASMLの時価総額が5000億ドルに到達する。
  3. AIの安全性に取り組むAnthropicが汎用人工知能(AGI)リサーチの新しい流れとなる。
  4. AI半導体分野における再編の波が押し寄せ、Graphcore、Cerebras、 SambaNova、Groq、Mythicのうち、少なくとも1社が大手企業や既存の半導体企業により買収される。
  5. 小規模なトランスフォーマーとCNN(畳み込みネットワーク)ハイブリッドモデルが、現在のSOTAの10分の1以下のパラメーターで、Top1精度で同レベルになる。
  6. DeepMindが物理科学における画期的なリサーチを発表する。
  7. JAXフレームワーク(Googleが2019年に発表したPythonパッケージ)が、実装コードと共に公開されている論文サイトのPapers With Codeが作成する月次リポジトリに占める比率が1%から5%に増加する。
  8. AGIにフォーカスした新しいリサーチ企業が登場する。

ちなみに、2020年の8つの予想のうち、部分的な的中を含めると、6つが当たりました。的中したものとしては「初の10兆パラメーターモデルが登場」(Microsoftが32兆のパラメーターを持つモデルの学習を実証)、「Attentionベースのニューラルネットワークがコンピュータビジョンにおいて最先端の結果に到達する」(Vision TransformersはImageNetで1位に)、「NvidiaによるARM買収は完了しない」(買収は期限内に完了しておらず、引き続き調査中)などがあります。

TransformerがメジャーなAIアプリケーションや3Dポイントクラウドにとって代わるとの予測を立てている

(TransformerがメジャーなAIアプリケーションや3Dポイントクラウドにとって代わるとの予測を立てている)

“AIファースト”で製薬が変わる

8つの予言には難しい言葉が並んでいますが、執筆者が挙げているポイントをいくつか紹介しましょう。

執筆者は、技術面での予言の1つに入っているトランスフォーマーに注目しています。トランスフォーマーは「機械学習アルゴリズムがデータポイント間の重要な関係にフォーカスし、より包括的に意味を抽出することで予測の精度を高める」テクニックで、「機械学習の汎用目的アーキテクチャとして使われるようになる」と見ています。

ここでは、GoogleのVision Transformer(ViT)モデル、Facebook AIの「SEER(SElf-supERvised)」モデルなどのトランスフォーマーでの動きを紹介しながら、汎用的に使われようになることを予想しています。UCバークレー校、Facebook AI、Googleの研究者は、事前に学習した言語のトランスフォーマーのコアパラメーターをチューニングしなくても異なるタスクで強力なパフォーマンスを得られることを示しているそうです。

業界別では、「バイオでAIファーストのアプローチが採られるようになる」といいます。中でも、製薬業界。新型コロナで世界的に導入されたmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、数年かかると言われるワクチン開発を、AIを利用することで短縮化しました。

レポートでは、RNA分子の立体構造予測に向けた最新技術としてARES(原子回転同変スコアラー)を紹介しています。mRNAなどの1本鎖RNAは3次元構造を持ちますが、折りたたみ構造についてはほとんどわかっていません。利用可能なRNA構造の数は、同じく折りたたみ構造を持つタンパク質の1%にも満たない状態ですが、ARESは、RNA分子の各原子の3次元座標と化学元素の種類を処理し、未知の構造からの平均二乗偏差(RMSD)を予測するという手法だそうです。

シミュレーションが高速になることで、創薬とヘルスケアが大きなメリットを享受できると予想しています。

人材育成、論文数では中国、投資を集めるのは米国

AIといえば人材不足が世界的な課題です。世界のAI人材動向はどうなっているのでしょうか?

ブラジル、印、米、中、英、独など8カ国でAI人材の起用を追ったOECDのデータによると、ブラジルとインドでは2017年の3倍のペースでAI人材の採用が進んでいます。あとを追うのはカナダ、中国です。AI人材に占める女性の比率については、インドが最も高く、フランス、ブラジルと続いています。

パイプラインという点では、中国と米国のSTEM分野の博士号取得者数の推移を比較しています。2000年時点、中国は米国に倍差でリードされていたのが、2007年までに米国を上回りました。現在の入学や専攻パターンから、2025年には米国の2倍になるとの予想です。

背景には、中国政府が2012年から21年の間に高等教育への投資を倍増させたことがあります。この結果、博士号取得者は40%増加したとのこと。AI論文という点でも、質の高い論文の発行数では、中国科学院がトップ。中国科学院は1980年時点ではゼロだったのが、現在は2位の米ハーバード大学と大差をつけた首位となっています。

北米の大学の傾向としては、教授が大手IT企業(Google/DeepMind、Amazon、Microsoftがトップ3)に流れる動きが継続していること、大学の研究機関で十分な予算が取れないことからIT企業からの研究資金を受け取っていることなどのデータも紹介しています。コンピュータサイエンス学部全体では、84%が何らかの出資を受けているとのこと。企業のメリットとしては、「間接的に良いイメージを構築したり、イベント、意思決定、リサーチ計画に影響を与えたりすることができる」と分析しています。

一方で、大手IT企業はエリート大学とのみ協業する傾向が強くなっているとも指摘しています。これにより、重要な研究成果の多くがごくわずかなグループから生まれるという事態につながると予想しています。

投資面では、AI企業への投資の3分の2が米国に流れています。当然、AI分野のユニコーン企業を最も多く輩出しているのも米国で、その数は103企業。合計の企業の評価額は8010億ドル、次は中国で35社、合計の評価額は3460億ドルとなっています。なお日本は12番目で、ニュースアプリを手掛けるスマートニュース1社のみとなっています。

一方、レポートは中国の伸びにも触れています。米国と中国の競争の中で、研究の質と人材育成における中国の上昇は注目に値するものだとしています。中国の研究機関は現在、最も著名な西欧の研究機関をしのぐ存在になろうとしています。また、世界中のハイテク業界の巨人を対象に、AIチップを製造している台湾の半導体産業に世界が依存している現状は、地政学的緊張の中心点だとも指摘しています。

State of AI Reportへの協力者にも注目が集まっている

(State of AI Reportへの協力者にも注目が集まっている)

Benaich氏とHogarth氏は、「AIは着実に浸透している。送電線などミッションクリティカルなインフラでも使われるようになった」と記します。その上で、課題として、「業界の成熟度が、拡大するAI実装についていけるか」と問うています。AIは既に学術的な領域などではなく、日常のあらゆる場面を支え、変革する存在になっています。その最前線となる研究があることを知り、概要をつかむだけでも、今後のビジネスやIT環境をとらえることができるでしょう。

 

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岡田陽子
ビジネスを変革するための企業のIT活用について、海外を含めて長年にわたって取材、執筆している。
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