「SWIFT」が果たす役割、世界貿易を支える送金基盤をめぐるさまざまな事情
EU理事会(閣僚理事会)は2022年3月2日、国外送金の国際銀行間通信協会(SWIFT:Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)システムからロシアの一部銀行を排除する制裁措置を採択したと発表しました。SWIFTの利用ができなくなるということは、その国の企業が貿易の決済ができなくなることを意味しており、経済制裁としては最も厳しい措置だとされています。
ただし、これまで海外送金と縁遠いところにいた人にとって、このSWIFTの機能や働きはいまひとつなじみがありませんでした。今回のSWIFT制裁は、背景を調べていくとデータ活用とDXに関係が深いことが分かります。IT活用の未来を考えさせられる事象です。
SWIFTのどのようなところがIT活用と関係があるのでしょうか。
SWIFTとは
SWIFTは銀行間の国際金融取引に係る事務処理の機械化、合理化および自動処理化を推進するため、参加銀行間の国際金融取引に関するメッセージをコンピュータと通信回線を利用して伝送するネットワークシステムです。
口座などを持つ銀行として機能しているわけではなくて、銀行間の国際的な送金メッセージ(支払指図)の通信を担っています。本部がベルギーにある協同組合です。SWIFTの役割は大変重要で、世界200ヵ国以上、1万1000行の国の銀行が加盟しており、これによって世界のどの国のどの銀行に対しても、資金を送ったり、受け取ったりできるようになっています。
通常、1つの国の中では、中央銀行のような存在が資金の決済を行う仕組みになっています。しかし、国境をまたいだ取引には、中心になって決済を行うシステムがありません。そこで、それぞれ違う国の銀行と銀行の間で契約を結び、受け払いをするのですがこれを「コルレス銀行」といいます。
SWIFTは資金決済だけではなく、株式投資や債券投資などの取引や決済に関する「証券メッセージ」も取り扱うようになっています。また、国際的に展開する事業法人が資金移動を行うなど、多国籍企業が使用することもあります。
SWIFTが世界経済に及ぼす影響
今回のウクライナ危機で、ロシアの主要銀行がSWIFTから排除されたことを受け、にわかに多国間の資金決済方法に注目が集まっています。
SWIFTを通じてやり取りされるメッセージ量は年々増加しており、2021年11月時点で1日平均4000万件以上を取り扱ったといいます。事実上、世界公式の資金決済方式であり、これを抜きに国家間の貿易・資金決済・証券投資を行うということは現在では考えられません。
SWIFTから排除されることは、世界中の国と十分な取引ができなくなることを意味しており、ロシアは大打撃を受けるであろうといわれていました。
ところが、現実にはSWIFTから排除されたことから3月に暴落したロシアルーブルの為替相場は、4月以降ウクライナ侵攻前の水準に戻っています。ロシアは、本当に打撃を受けているのでしょうか。SWIFT以外の抜け道の存在もあるようです。
SWIFTから排除されたらどうなる
ロシアは、SWIFTからの制裁でほとんどの主要銀行をターゲットにした送金が遮断されたことになります。送金だけではなくロシアへの投資も行われなくなるわけでこれは大変な打撃となるように見えます。
実際に、イランで過去に同様の経済制裁が行われています。2012年に核開発問題でイランの銀行が排除されたことがありました。この影響でイランの輸出は大きく落ち込み、SWIFT以外の物々交換などの手法に頼らざるを得なかったといいます。苦境に立たされたイランは15年7月、経済制裁の緩和と引き換えに核開発の制限を受け入れることになったのです。
ところが、ロシアには異なる事情があります。ロシアはパイプライン経由で天然ガスをドイツへ輸出しています。資金決済が絶たれるとドイツも困ることになります。そこで、今回のSWIFT制裁ではロシア第2位の銀行であるスベルバンクを制裁の対象から外すなど、一定の配慮がなされたということもあり、完全に送金ルートが絶たれたわけではありませんでした。ロシアに対する経済制裁の返り血を浴びるというわけです。
SWIFTに変わる存在
経済制裁のうち最も大きな効力をもつといわれるSWIFTですが、もとを正せばコミュニケーション手段です。SWIFTに変わる手段はないのでしょうか。調べてみると、いくつか見つかりました。
SPFS
ロシアはSWIFTから排除されることを事前に想定して準備していました。「SPFS」と呼ばれる銀行間決済ネットワークがそれです。ロシアは、2014年にウクライナ南部のクリミア半島を併合しましたが、この時、SWIFTからロシアを排除しようという案が浮上したのがきっかけといわれています。加盟金融機関は約400で、ロシア国内ではSWIFT加盟数を上回っています。しかしながら、ほとんどはロシア国内での利用にとどまっているといわれています。
SPFSは今後の発展次第では、ロシアと海外の資金のやり取りができる可能性は高まるでしょう。今回の制裁を契機に、経済的結びつきが強い新興国や途上国との決済をSPFSで行おうとする流れが生じてくるかもしれません。
CIPS
「世界の工場」といわれ、今やGDP世界第2位の経済大国となった中国は、通貨の影響力を高めつつあります。CIPSは、中国の中央銀行、中国人民銀行が2015年に導入した人民元の国際銀行間決済システムです。
中国や欧米の大手金融機関のほか、日本勢からも三菱UFJ銀行とみずほ銀行の中国法人が同システムに接続しています。中国と貿易をする諸国は、決済方法に人民元建てのCIPSを使うよう促されていて、CIPSを使う取引は今後広がっていくことが予想されます。
2022年4月の時点ではCIPSがSWIFTにとって代われる範囲は限られています。CIPSは決済通貨を人民元に限定していて、送金情報の伝達はSWIFTを使わなくてはなりません。実際はCIPSを利用した決済においてSWIFTに依存せざるを得ない状態です。
DC/EP
DC/EP(Digital Currency/Electronic Payment)は、中国人民銀行が発行するデジタル通貨です。2014年から研究が進められてきており、もう間もなく正式に使われ始めるでしょう。
電子決済方式として中国にはすでにアリペイなどの方式がありますが、これらはサーバークライアント型で現実の人民元が預金されている銀行口座と紐づけて使用されます。これに対し、DC/EPは、国家が発行した通貨そのもので、ブロックチェーン技術が用いられる「国家が発行する暗号資産」です。
まだ始まっていないサービスであり、決済金額の上限なども未知数です。また、人民元の国外取引は制限されているという事情もあります。しかし、もしこれが普及すれば、SWIFTのような仕組みなしでも直接人民元で受け払いを行うことができることになります。
CBDCのゆくえ
DC/EPのように中央銀行が発行する「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」が注目を集め始めています。日本国内でもCBDCという略称を見かけるようになってきました。
電子的な決済手段なら、スマホバーコード決済などで既にいろいろな種類が普及していますが、これらとCBDCが異なる点は「発行主体が中央銀行である」という点です。「~ペイ」などのスマホ決済では個人のクレジットカードや銀行預金に基づきますが、CBDCは中央銀行に基づきます。すなわち残高を中央銀行が管理するということです。
CBDCは2020年10月に中米のバハマで「Sand Dollar(サンドダラー)」が、同年10月、カンボジアで「Bakong(バコン)」の発行が既に行われています。3番目の発行が人民元ではないかと予想されています。
日本を含む各国は、中国の動きを横目で見つつ、水面下でCBDCの開発を進めているようですが、実験や、準備しなければいけないことが多く、開始されるのはまだ先のことになりそうです。米CNBCが2021年11月に報じたところによれば、英国中央銀行はCBDCが何らかの形で登場するまでに、少なくとも2025年までかかるといいます。
ここまで、ロシアに対するSWIFT制裁を見てきた中で、国際間での送金についてのいろいろな事情が見えてきました。これらの事象から感じられることは、経済の中心にある「通貨」というものの在り方や概念、常識すら大きく変わろうとしていることです。
このことは、システム構築やデータ活用をする上で、基本的な事情として理解しておく必要があるでしょう。一見、あまり関わりを感じられないかもしれませんが、社会基盤を構成する通貨のやり取りの仕組みについて、われわれは注目しておく必要があります。
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