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心の中で思った言葉をAIが話す時代に 東工大、京大、慶大などが進める最先端脳科学と産業界との連携

2022年03月31日更新

ディープラーニングはAIの発展を支える根幹技術の1つですが、何ができて何ができないのかについてはまだ不明点が多いのが実情です。そこで、AIと脳科学をかけ合わせた面白い研究を紹介します。「心の中で思い浮かべた言葉を、AIが言葉にして表現する」すこし信じがたい気はしますが、そんな研究がいま進んでいます。そう遠くない将来、現実になる日が来るのかもしれません。

脳の活動を読み取りAIを使って音声を再現する

東京工業大学の吉村奈津江教授は、頭に電極を付けて脳波を測定し、聞いた音や思い浮かべた音を、AIを活用して再現する手法を開発しました。現在、東京工業大学では脳科学の技術を応用し、脳でイメージした言葉を音声にする研究が進んでいます。脳は何かを考えるときに脳神経細胞は信号を発します。この信号を読み取り、AIを使って分析し音声を合成することで音声として復元できるのです。

まだ研究途中ですが、復元した音声を人の耳で聞き取れるかどうか判別試験を行ったところ、現在でも8割程度の判別が可能になっています。この技術を応用することで、身体に障害がある方、寝たきりでコミュニケーションが取れない方でも、何を考えているかを把握できるでしょう。

研究の概念図

研究の概念図 出典:東京工業大学

頭部を傷つけずにデータを集められる

従来の研究では、頭部に外科出術を施して脳の表皮にセンサーを被せて測定するのが一般的でした。脳が発した信号は次第に小さくなっていくため細かいデータを取ることができず、直接脳にセンサーを設置して集めていたのです。

現在では、頭の中にセンサーを埋め込む必要がなくなり、頭に電極を装着するだけなので抵抗感が少ないのが特徴です。他にも、電極を搭載したウェアラブル端末を頭にかぶるだけで情報を取得できるようになっています。

脳内のイメージ画像もAIが読み取ることも可能

脳科学の技術を使い、音声だけでなくイメージも読み取ることができるようになっています。つまり、頭に思い浮かべた映像・画像を、AIを活用して画像を復元できるのです。京都大学の研究では、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により脳活動のパターンを機械学習により解析し、画像を脳から解読する技術を開発しています。

脳科学とAIやビッグデータを活用することで、画像認識の精度はどんどん高まっていくでしょう。先程の音声認識の技術と組み合わされば、より多くの情報を取得できるようになります。

脳-機械融合知能」の概念図(脳-機械融合知能」の概念図:ヒトの脳と深層ニューラルネットワークを対応づけることで、脳からビッグデータの利用を可能とすると京都大学が公表)

脳とAIをつなげる「BMI技術」

先程紹介した2つの技術は「BMI」と呼ばれるものです。BMIとは「ブレイン・マシン・インターフェース」の略で、脳科学とAIが融合した技術のことです。この技術を活用することで、一生治らないとされている重度麻痺を治療できる可能性があるなど、主に医療関係分野で活用されています。

他にもカメラで記録した情報を直接脳に送ることで視覚として再生するなど、インプットやアウトプットをサポートする技術です。この技術を応用することで、体に重度の麻痺が残っている場合でも念じるだけで身体を動かせるようになります。

その他に利用されている内容

このBMI技術は医療関連分野以外にも活用が期待されています。普段の生活の中で利用できるように、頭に電極を貼ったり、頭にかぶったりするウェアラブル端末を使用するものもあります。

モチベーションを可視化する

頭にかぶったウェアラブル端末が脳波を分析し、仕事に集中している時間や休憩している時間を計算できます。この技術は主にビジネス面で使われており、従業員のモチベーション管理や労働時間の管理に応用されています。

例えば、集中している時間帯に重要な仕事をして、注意力が散漫になっている時間帯に休憩を入れるということが可能です。このように適切な時間管理をすることで、生産性を高める効果が期待されています。

文字入力を脳内で行う

Facebook(現Meta)は以前から、脳内で文字入力を行う技術を研究していました。このとき、Facebookは1分間に100語の入力を目指し開発していました。この技術はイメージするだけでいいため、誰でもスピーディに文字を入力できるようになります。実用化できるようになれば、業務効率の向上などが期待できますが、残念ながら短期的に十分な成果を発揮できなかったとして、2021年7月に撤退を発表しています。

リスクのある技術発展

このBMI技術は医療関連分野以外にも応用できる汎用性が高い技術です。しかし、「人の脳内情報を把握できる」というのは、恐い使い途も考えられるものでしょう。

例えば、質問に対して心拍数など人の生理的反応から嘘かどうかを見破る「嘘発見機」に、このBMI技術を応用すれば、飛躍的に嘘を見抜く精度は高くなります。しかし、イメージした情報を抜きとられるとすれば、質問以外の情報が知られる可能性があります。

このようなことがどんどん発展していけば、犯罪などに悪用されやすいでしょう。個人の重要な情報だけでなく、会社や国の重要な機密ですら漏えいしてしまう可能性があります。実用化するためには、脳の情報を取得するハードルを下げる必要がありますが、それは同時にプライバシーを侵害する可能性が高まることを意味します。

脳内の人権を保護する必要性

BMI技術が進めば植物状態の人とコミュニケーションが取れる可能性があります。しかし、他人に知られたくない情報が漏れてしまうなど個人情報漏えいの危険性も無視できません。

また、脳でイメージした文章をそのまま文字入力でき発信できるようになれば、頭に思い浮かんだ率直な感想・気持ちがそのままSNSなどに投稿される可能性があります。そのようなことが起きれば、人間関係が崩れるなどさまざまな問題が発生するでしょう。

脳内の情報は究極のプライベートなデータであるため、情報を取得する技術と同時に情報を保護する技術も求められています。

BMIの倫理綱領 3 基準

現在ではBMIの研究開発が進んでいますが、同時に法整備などが課題になっています。特に重視されているのが倫理的な面を守ることです。

慶應義塾大学はBMIを適切に利用・開発するために「BMIの倫理綱領 3 基準」を設定し発表しました。この「BMIの倫理綱領 3 基準」は以下の通りです。

  • BMI 動作が引き起こした事故や事件に対する法的責任の明確化(行動責任)
  • 読み出した脳情報の保護、脳への不正なアクセス防止(個人情報保護)
  • 技術情報の正確かつ迅速な開示に基づく倫理規範の熟成と社会受容の促進(社会啓発)

この基準は、BMIの産業化に取り組む企業の行動規範になると考えられています。今後、BMIの倫理実装に関する世界的な基準になり、適切な法整備に繋がることが期待されています。

今回は、AI技術を活用した「BMI技術」について解説しました。BMI技術は世界中で注目されており、今回紹介した技術や活用例以外にも多くの事例があります。今後は、AI技術の発展に伴いBMI技術も同様に発展していくでしょう。

このBMI技術が進むことで、医療分野やビジネスの分野で活躍していきます。しかし、同時に悪用される可能性もあるため適切な法整備が求められるでしょう。先端技術を追求する学術界と、新たなビジネスの創出を続ける産業界が効果的に連携して、安全な形で新たな可能性を模索する事例としても、AIと脳科学の取り組みに注目が集まります。

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記助
IT業界に限らず、さまざまな分野に携わるマルチライター。
メタバースやAIなど、ホットな話題を提供します。
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