五輪で正式採用へと動くeスポーツ、ゲーム業界から社会課題のソリューションへと変化
現在、新しい競技として注目を集めている「eスポーツ」。競技者として参加するだけでなく、ファンとして試合を観戦・視聴するニーズも見込まれるため、これからの市場拡大が期待されています。
国内では国民体育大会の文化プログラムとして採用されており、世界的には五輪(オリンピック)の種目になる可能性も出てきています。今後はリアルスポーツと共存共栄の関係になるといわれています。さらに、eスポーツはゲーム業界だけでなく、医療福祉・教育面などからも注目されており、社会課題の解決策としても期待されています。そこで今回は、eスポーツについてさまざまな視点から解説していきます。
eスポーツとは
eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」を指し、広い意味では電子機器を使うゲーム・競技・スポーツ全般を指します。一般的には、コンピューターゲーム・ビデオゲームなどで競技を行います。
eスポーツという言葉が国内で使われ始めたのは最近のことですが、その意味するものは以前から存在していました。1980年ごろからコンピューターゲームが生まれ、数多くの大会が開催されており、現在のeスポーツの原点といえるでしょう。
1990年代は日本で格闘ゲームがブームになり、2000年に「eスポーツ」という単語が使われ始めました。現在では、オンライン上で対戦できるゲームが豊富にあり、盛り上がりを見せています。
eスポーツを推進するJeSU
2018年には、一般社団法人日本eスポーツ連合「JeSU」が設立されたこともあり、「eスポーツ元年」と呼ばれています。このJeSUは日本eスポーツ協会、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟の3つの組織が統合したことで生まれました。
JeSUは日本におけるeスポーツの振興を通じ、国民の競技力の向上・スポーツ精神の普及を目指します。また、eスポーツが経済社会の発展に寄与することを目的に活動をしています。
主なJeSUの役割・活動は次の通りです。
- eスポーツ振興に関する調査、研究、啓発
- eスポーツ競技大会の普及
- eスポーツ競技大会におけるプロライセンスの発行と大会の認定
- eスポーツ選手育成に関する支援
- eスポーツに関する関係各所との連携
2018年以降、eスポーツの大型大会が日本各地で開催されており、その大会普及にJeSUが関わっています。他にも、数あるゲームの中から正式な種目として採用するための基準の設定や、競技大会におけるプロライセンスの発行・大会の認定などを行っています。
eスポーツが注目されている要因
eスポーツはコンテンツとして大きな経済効果が期待されています。競技に使用される電子機器はPCがメインであり、eスポーツが盛り上がることでゲームタイトルの市場が拡大していくでしょう。
また、経済効果が見込まれているのはプレイヤー側だけではありません。プロプレイヤーの対戦や、国際大会・全国大会など大規模な大会は、eスポーツファンによる試合観戦・動画視聴のニーズが大きいです。
現在の動画視聴サイトのように、人気がある対戦・試合は多くの視聴数が期待できれば、広告・宣伝の場としても活用できます。使用されるゲームタイトルの宣伝になるのはもちろん、スポンサーとして出資することで広告を出稿すれば、効率良くプロモーションを実施できます。
そのため、プレイヤーだけでなくさまざまな分野の企業も、eスポーツに関心を持っています。
社会課題の解決策としての期待感
eスポーツの経済効果と社会的意義(画像出典:経済産業省)
eスポーツの魅力は性別や年齢、障害の有無を超えて楽しめることです。大規模な大会は特定の会場で行われることもありますが、今ではオンライン上で参加することもできます。そのため、PCやネット回線などの設備があれば、比較的誰でも取り組めます。そのため、次のような分野でもeスポーツの可能性が期待されています。
医療・福祉とeスポーツ
障害の有無に関係なく取り組めるため、パラスポーツとしての活用として期待されています。また、eスポーツは年齢に関わらず楽しめるため、高齢者にとって一生涯楽しめる趣味として注目されています。
地域活性化とeスポーツ
観光資源と連携したeスポーツのイベントの開催や、住民間交流の創出、地域コミュニティの活性化などが期待されています。
教育・国際交流とeスポーツ
eスポーツは教育面において、部活動としての取り組みがあります。不登校の子供でもオンラインであれば参加するハードルが低く、部活動を通じてコミュニケーションを図りやすいです。他にもICT人材教育の強化や、海外プレイヤーを通じた国際交流・外国語学習などでも活用可能です。
eスポーツ市場データと経済効果
eスポーツ市場の規模は、元年である2018年から右肩上がりです。2018年には48億3100万円だった規模が、2021年には86億7600万円、2022年には127億8700万円になると見込まれています。
2018年から2024年のeスポーツ市場規模(出典:JeSU)
現在では、eスポーツ自体が浸透しつつあり、ファンの数も増えていくでしょう。市場規模と同様に、2018年以降は増え続けており382万6000人でしたが、2021年は796万3000人と2倍以上に増えています。
2018年から2024年のeスポーツファン数推移(出典:JeSU)
競技に採用されているタイトル
eスポーツでは、どのようなゲームでも競技として採用されるわけではなく、 JeSUが正式な種目として公認する条件を定めています。 JeSUが定める公認条件は以下の通りです。
競技タイトルの公認条件
以下の 4 項目に基づき、IP ホルダーと JeSU が協議の上、JeSU が判断する。
1.1 ゲーム内容に競技性が含まれること(競技性)。
1.2 ゲームとして 3 カ月以上の運営・販売実績があること(稼働実績)。
1.3 今後も e スポーツとして大会を運営する予定があること(大会の継続)。
1.4 e スポーツとしての大会の興行性が認められること(興行性)。
引用:JeSU 公認タイトル規約
競技タイトルの一例
eスポーツは日本国内だけでなく世界的に広まっている分野なので、採用されているゲームはいずれも人気作です。特にシリーズとして長く愛されているものが多く、大人から子供まで楽しめるものになっています。
対応している機器もさまざまで、パソコンや専用ハード以外にも、スマートフォンで参加できるものも多いです。
主な競技タイトルの一例
- エーペックスレジェンズ
- グランツーリスモSPORT
- 「スプラトゥーン」シリーズ
- 太鼓の達人
- 「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ
- グランブルーファンタジー
- パズドラ
- 「ぷよぷよ」シリーズ
また、経済産業省は2022年3月31日に、Z世代におけるeスポーツおよびゲーム空間における広告価値の検証事業に関する報告書を発表。以下のように、eスポーツの視聴タイトルのランキングを発表しています。
全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2022 TOCHIGI
国内の大規模なeスポーツの大会の1つに「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」があります。この大会は、各都道府県の予選を勝ち抜いた代表選手によって競われ、日本一を決める大会です。
2019年に第1回大会が開催され、2022年10月に第4回大会が栃木県で開催される予定です。この大会は、国民体育大会(国体)の「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」の文化プログラムであるため、一般的なスポーツと比較しても大きな大会であることが分かるでしょう。
eスポーツとオリンピック
eスポーツは五輪の正式種目として採用する動きが出ています。実際に、2018年のアジア競技大会ではeスポーツが公開競技として採用されました。日本だけでなく世界的にもeスポーツを推進する動きがあるため、将来的に正式採用される可能性はあるでしょう。
しかし、eスポーツがオリンピックの種目になるためにはいくつか課題があります。まず、オリンピックは平和の祭典であるため、採用されるゲームの基準が厳しくなります。例えば、FPSなど銃を使ったゲームは「暴力的な表現」が含まれるため、正式な種目としての採用は難しいという見方が強いです。
他にも、正式な種目として採用されるゲームには著作権の問題も絡んできます。ゲームのタイトルはゲーム会社が著作権を持っているので、大会で使うためにはゲーム会社の使用許諾が必要になります。五輪のように世界的に注目される大会では、採用されたゲームとそうでないゲームで大きな差が出てしまうでしょう。そのための基準の設定にも時間がかかります。
また、ゲーム業界は新しいゲームがどんどん登場しています。オリンピックは4年に1度の開催であるため、1つのゲームを正式種目として固定するのも難しいといえるでしょう。
「ぷよぷよ」や「太鼓の達人」も
eスポーツは現在だけでなく、今後も市場が拡大すると期待されている分野であり、国民体育大会などの規模が大きな大会もあるため、盛り上がりを見せています。ゲーム産業だけでなく、医療や教育分野からも注目されており、社会課題の解決策としても活用されています。
競技に採用されるタイトルには、「ぷよぷよ」や「太鼓の達人」など幅広い年齢層に愛されているものもあり、幅広い年齢の人が取り組めるでしょう。今後も拡大を続けているeスポーツ業界について、最新情報を押さえていくのがおすすめです。
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