深刻化するDX人材不足、三菱UFJ銀行ら大手企業の秘策とは
DXをリードして新たなビジネスを開拓する人材を育てるため、企業がさまざまな施策を実施しています。ここでは、三菱UFJ銀行などさまざまな企業の取り組みを紹介します。
DXが企業や組織の重要な命題となっています。デジタルを活用した新しいビジネスモデルやサービスを掲げて市場崩壊に挑むベンチャーはもちろん、業界の垣根は低くなり異業種参入も珍しくありません。そこで課題になるのがDX人材です。不足していると言われていますが、各社はこの問題をどのように解決しているのでしょうか? 金融・保険業界から3社の取り組みを見てみます。
DX人材やスキル確保は大きな課題
デジタルを用いて組織を変革するDXを推進するためには、デジタル技術に詳しい人材は不可欠です。システム構築だけでなく、データを収集して活用するためにはデータ分析、人工知能(AI)などの知識が求められます。しかしこれらは比較的新しい技術であり、知識がある人材も限られています。ところが需要は高まる一方、実際に経済産業省では2030年にはIT人材が最大79万人不足するという予想しています。
「IT人材不足」
このような背景から、DX人材の確保は大手であっても課題のようです。帝国データバンクの調査によると、「DXに取り組む上での課題」として50.6%が「対応できる人材がいない」、47.7%が「必要なスキルやノウハウがない」と回答しており、人材に関連した課題を抱えていることがうかがえます。経済産業省のデータでも、53.1%が「人材不足」を挙げています。
全員とコア人材の二輪でDXの人材面に取り組むMUFJ
金融は他業界と比較すると規制が強い業界と言えますが、それを乗り越える形で、さまざまなフィンテックベンチャー、そして新しい決済方法の台頭など、デジタルの波が押し寄せています。そんな中、大手金融機関の三菱UFJ銀行では、行員全員に対するデジタルリテラシーの教育とDXのコア人材の専門スキル教育を進めています。
行員全員のデジタルリテラシー教育では、eラーニング形式をとることで社員は好きな時間に学ぶことができるようにしています。外部資格の取得も奨励しており、条件を満たせば3年で最大90万円を支給するという仕組みです。
コア人材教育は、専用の研修プログラムを通じて育成します。金融業界に大きな影響を与えると言われるブロックチェーン、AIなどのテクノロジーだけでなく、顧客体験をカバーするデザインも含まれています。コア人材は中堅社員ですが、パイプラインとして若手社員を主なターゲットとしたコア人材の候補に対しても、プログラムを用意しているそうです。
行員全員の知識やスキルを上げることは、社風の改善にもつながります。一部のDX部隊がやるのではなく、全員でデジタルに取り組むことでDXの効果をさらに高めることができそうです。
SMBCグループは全員が学び攻めと守りの両方のDX
全員にデジタルについて学んでもらうという取り組みは、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)も進めています。三井住友銀行、SMBC日興証券などを傘下に収める同グループは、約5万人の従業員を擁します。
既に「デジタルユニバーシティ」としてデジタルITを学ぶ教育プログラムを用意し、専門の人材の育成や従業員のデジタルリテラシー教育を進めてきたという土台がありました。最新の全社員向けの育成では、学習コンテンツとして10分程度の短い動画を用意するなどわかりやすいものになっているようです。内容は、デジタルリテラシー、デジタルスキルだけではなく、デジタルマインドとしてデジタルの重要性について理解してもらうコンテンツもあるといいます。動画の合計は約5時間。受講後は、オンラインで開かれるワークショップなどが用意されており、実践につなげているそうです。
全員参加型で取り組むことで、デジタル技術の活用により作業の効率化をはかるという「守り」の要素、デジタル技術を活用した新規事業の創出、そして既存事業の変革という「攻め」の要素もカバーしていくことを狙っているとしています。
大学のバーチャルラーニングを導入した大同生命
最後に紹介するのが、大同生命(T&D保険グループ)です。保険大手の同社は、内務職員向けにAI活用について学ぶeラーニング(バーチャルラーニング)を導入しています。
大同生命が導入した学習コンテンツは、日本アイ・ビー・エム(IBM)と関西学院大学が共同開発した「AI活用人材育成プログラム」です。AI活用人材とはAI研究や開発者ではなく、AI技術を活用してAIユーザーの抱える問題を解決する「AIスペシャリスト」、AI技術を利用したソリューションを使ってビジネス上の問題解決を行う「AIユーザー」の2タイプと分類し、全14回20時間程度でAIの基礎知識から実践に必要なスキルまでを学びます。元々は、教育機関である関西学院大学、AIの実践やユースケースを持つIBMが学生向けに作成したものです。
講師による解説だけでなく、実際にアプリケーション開発のデモ画面、チャットボットでの質問などの機能もあるため、業務の隙間時間や在宅でも自分のペースで学びを進めることができるとのこと。大同生命によると、初年度は本社の内務職員1500人を対象とし、その後支社の内務職員に拡大することになっています。それだけでなく、全内務職員を対象に「ITパスポート」の資格取得の推進も進めています。(参考|https://www.daido-life.co.jp/company/news/2021/pdf/210427_news.pdf)
IT人材がユーザー企業にいない日本
DX人材不足が日本で深刻な課題となっている背景の1つが、IT人材がIT企業にいるという固有の特徴があります。
日本におけるIT人材は、72%がIT企業におり、ユーザー企業側には28%しかいません。これは、75%がユーザー企業、IT企業には35%しかいないという米国は全く対照的で、このことがDX人材の確保を難しくしています。
「IT人材 各国比較」
一方で、外部からデジタルに通じた人材を起用できても、業務に精通していないとデジタルの活用、さらには改革にはつながりません。その意味からも、既に自社の業務も組織構成も知っている社員にデジタル化、そしてDX人材へと育てることは、(時間は多少かかるかもしれませんが)必要不可欠な取り組みと言えるでしょう。
出典:リクルート『リクルートエージェント』転職決定者数の分析
リクルートが調べたところによると、上図のようにIT通信業界出身者の転職決定数はこの数年右肩上がりの状況です。こうした傾向を受けて、リクルートは「求職者側も今後、より社歴に関係なく選択肢は広がっていく」との見通しを示しています。
背景にあるのがDX実施の要請です。あくまでもビジネス視点で変革を進めるDXでは、1業種にとどまらない知識が求められたり、大手企業とベンチャー企業の両方の知見を持っていたりすることが武器になると分析しています。
特に、今後は製造業の工場や、小売店舗などさまざまな場所にセンサーが置かれ、それが大量のデータを生み出すことが予想されています。さらにそのデータを分析し、業務プロセスの改善や新たなビジネス機会の創出へとつなげる必要が出てきます。
データサイエンティストと呼ばれる職種への人気が高まっているとも言われており、エンジニアの中でも需要の大きさには差が出てくるかもしれません。現在はIT専門企業にアウトソースすることの多い日本企業ですが、今後は内製化に動くといわれています。
こうした流れの中で、IT人材を求める企業はますます増えていくと考えられています。
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