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ドローンが迎える「レベル4」の衝撃、農業に加え物流にも革新をもたらす

2022年08月26日更新

空飛ぶラジコンことドローン、機器が安価になったことで一気に認知が広まったのは少し前のことです。そのドローンにとって2022年は重要な年となりそうです。レベル4として、有人地帯での目視外飛行が12月にも可能になる予定からです。これにより、これまでの農業、点検、空撮といった用途から、物流などへ一気に広まると期待されています。

空の破壊者? ドローンの歩み

ドローンは無人航空機(UAV;Unmanned Aerial Vehicle) とも呼ばれる小型の航空機で、日本では上空150メートルまでを飛ぶことができます。遠隔から操作するもの、プログラムにより自律的に飛行するものがあります。

それまで航空会社が運行する旅客機などが独占していた空に、ドローンが入ってきたことで法改正が進みました。引き金となったのは同年4月に首相官邸の屋上に無人機が落下した事件です。航空関連を所管する国土交通省航空局は2015年12月に航空法を改正し、「無人航空機」を定義し、飛行ルールを定めました。

そして、2016年にドローン規制法(正式名称は「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」)が施行に入ります。これにより、首相官邸、国会議事堂などの対象施設周辺地域の上空ではドローンを飛行できないなどのルールができました。ドローン規制法はその後も改正が行われています。

飛行禁止空域

国土交通省が示す飛行禁止空域

現在、国土交通省のウェブサイトではドローンを飛行させる際のルールとして、上記のような飛行禁止区域に加えて、夜間の飛行、催し場所での飛行、操縦者が直接視認できない目視外飛行などを禁止しています。危険物輸送や物件投下も禁止されています。これら以外の方法で飛行する場合は、国土交通大臣の認証が必要です。なお、「ドローン等」のうち、重量200g以上の機器は「無人航空機」と定義されています。

国土交通省は無人飛行機の許可・承認、登録などの環境整備を進めると同時に、機体の高度化を受けて認める飛行レベルを少しずつ拡大してきました。飛行レベルはこれまで、目視内での操縦飛行(レベル1)、目視内での操縦なし飛行(レベル2)、無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)と進んでいます。

そして2021年3月、航空法を改正してドローンの「有人地帯上空での補助者なし目視外飛行」(レベル4飛行)を実現するための制度整備等を主な内容とする「航空法等の一部を改正する法律案」が閣議決定し、6月に航空法の改正案が可決・公布されました。これにより、2022年12月よりライセンスを持つ操縦者は、認証を受けたドローンを使った有人地帯の飛行が実現することになりました。

ドローンのレベル4飛行の活用シーンは?

レベル4ではどのようなことが実現するのでしょうか?

その前に、これまでの用途を見てみましょう。レベル1(目視内での操縦飛行)では空からの撮影、点検などが可能となりました。それが操縦なし、つまり自動・自律飛行となったレベル2では、空からの農薬散布、土木測量が主な用途となります。無人地帯での目視外・補助者なしの飛行が可能となったレベル3では、本土と離島間、山間部の物流や災害の対応といったユースケースをカバーしました。

先述の通り、レベル4では有人地帯で目視外・補助者なしの飛行が可能になります。これにより、活用シーンが大きく広がります。政府が公開している「空の産業革命に向けたロードマップ」をみてみましょう。

警備では、敷地内などの侵入監視・巡回監視に制限されていたのが、重要施設内での広域巡回警備、さらには市街地などで広域巡回警備をドローンができるようになります。これに画像解析技術を組み合わせることで、警備の効率や質が改善することが期待されています。

ドローン

医療では、緊急時の医療活動訓練、血液や医療資機材の輸送の実証実験を受け、ドクターヘリと連携した救急医療に必要な資機材を輸送したり、血液などを緊急輸送したりといった支援をドローンが行うシーンを描いています。

既に農薬散布などの事例をもつ農業・水産でも、農薬散布面積が100万haに拡大したり、ドローンを使って農地ごとに作物の生育状況を広域的に確認できたりします。森林管理でドローンを活用することも始まっています。

ドローンの農薬散布

有人地帯でのドローン飛行、物流での活用が広がる

生活者にメリットが大きいものの1つが物流・配達でしょう。

レベル3では、国内初の無人地帯における補助者なしの目視外飛行として、日本郵便が福島県南相馬市にある2ヶ所の郵便局間の輸送を行う実験が2018年11月に行われました。用いた機材は自律制御システム研究所(ACSL)の「PD1-Delivery」で、最大で2kgの荷物を運ぶことができるドローンです。PD1-Deliveryの仕様上の最大速度は時速72kmですが、実験は時速54キロ以下の速度で行われ、9キロ離れている区間を15分程度で輸送したようです。

福島県南相馬市にある2ヶ所の郵便局間の輸送を行う実験

福島県南相馬市にある2ヶ所の郵便局間の輸送を行う実験

次いで、楽天、ゼンリン、東京電力ベンチャーズが秩父市でドローン専用の飛行空域(ドローンハイウェイ)を使い、山間部での荷物配送実験を行なっています。

レベル4により、有人地帯での目視外飛行が可能になるため、第三者上空を飛行しての荷物の輸送などが可能になります。これまで無人の山間部などに限られていましたが、人が住んでいる都市部でも利用できる素地ができます。ロードマップでは、2022年度以降、人口密度の低い地域からスタートし、密度の高い地域に拡大していくとしており、陸上輸送や困難な地域で生活物品や医薬品などを配送することを活用イメージに挙げています。

このようなドローン物流の社会実装により、人手不足など物流機能の維持における課題を解決できると見ています。

例えば物流はECではボトルネックとなりかねない部分ですが、陸の交通渋滞、人手不足などの問題を緩和できそうです。災害時に陸の物流が機能しなくなっても空を使うことができるでしょう。また、CO2排出量削減の面でも効果が期待されています。

既にレベル4の飛行が承認されている米国では、Amazon、Walmartなどが積極的に実験を重ねています。Domino’s Pizza、Uber Eats/McDonald’sなど、食事の宅配サービスもドローン配達の実験を行なっています。

空の産業革命が始まっている

レベル4に拡大する背景にあるのは、「空の産業革命」の推進です。輸送や移動などの分野で空を活用した革新的なサービスが生まれることで、人々の生活が便利になると予想されています。

例えば、飛行機よりも気軽に利用できる空のタクシーにより、移動はもっと簡単に高速になるでしょう。人手を介することなく配達できれば、人口が少ない地域に住む人や高齢者の生活が便利になりそうです。

米国では、配車サービスのUber Technologiesの航空部門Uber Elevate(現在、Jody Aviation)が「Uber Copter」として、空の移動に進出を図っています。ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港とマンハッタン間、約25キロを10分足らずで移動できます。価格は200〜250ドル。タクシーだと1時間程度を要し、価格は52ドルです。ヘリコプターは資格を持ったパイロットが運転します。

このように、空の移動についても少しずつ破壊が始まっているようです。なお、Uberは2018年に電動型で垂直に離着陸できる「eVTOL(electric Vertical Take-off and Landing)」を使った空のタクシーの実験を米国やオーストラリアなどで進めることを発表しています。

このような空の産業革命が実現するためには、規制の整備、ドローンなど機材の発達に加えて、データ活用が不可欠です。データはドローンの安全な操縦に必要であるだけでなく、物流などサービスを提供する事業者が持つデータ、天候データなど、データを組み合わせることでさらに便利になるでしょう。ゆくゆくはスマートシティの一部としてドローンが上空を飛ぶ世界が近づいています。

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岡田陽子
ビジネスを変革するための企業のIT活用について、海外を含めて長年にわたって取材、執筆している。
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