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ダイバーシティ&インクルージョンとデータサイエンスの接点--武蔵野大学データサイエンス学部の中西准教授

2022年06月13日更新

ダイバーシティ&インクルージョン

近年、ダイバーシティ&インクルージョンが重要視されてきています。ダイバーシティ&インクルージョンとは、性別、年齢、障がい、国籍などの外面的属性だけでなく、ライフスタイル、価値観などの内面的属性も含めて、個を尊重し、認め、それぞれの良い面を生かすことです。

そのような環境でビジネスを進めるためは、データサイエンスという存在が不可欠だと考えています。全ての人がデータサイエンスのリテラシーを持つことで初めて真のダイバーシティ&インクルージョンが実現できます。その理由について、述べていきます。

これまで、ビジネスにおいては、勘やコツ、職人の技が非常に重要な位置を占めていたと考えています。勘やコツ、職人の技というと、特定の伝統技術の現場と思われるかもしれませんが、これらは、大げさなことではなく、例えば、営業職の場合、営業先に出掛ける際に先輩に後輩が連れられて顧客先に行き、先輩が成約を獲得するところを近くで見ながら、どのように営業をしていけばいいのか学んでいくというシーンがあるかと思います。これは、先輩が持っている勘やコツ、技を後輩が引き継ぎ、さらに後輩が自身の勘やコツ、技を生み出し、つなげていくということです。これによって、組織全体としては、持続可能な形でビジネスを進められます。

重要なことは、ここで先輩から後輩に伝わる勘やコツ、技というのは、先輩と後輩が同じ社風、文化を共有したという土壌の上で成り立っていることであるという事実を注視しなければなりません。これまでの職場というのは、なるべく同じ考えを持った、同じ志を持った社風、文化を共有しやすい者同士が集まっており、勘やコツ、技というものは、言語化、明示化しなくても、自然に伝わっていくという条件の下で成り立っていたと言ってもよいでしょう。

新型コロナ感染症の影響により、よくも悪くも働き方が大きく変わり、テレワークが一般的になりました。アフターコロナに移りつつあり、出勤が以前のように戻った組織もあるかもしれませんが、逆にオフィスを大きく縮小し、テレワークが当たり前になった組織もあるでしょう。テレワークにより、単にオフィスに行かなくても仕事ができるようになっただけでなく、さまざまなライフスタイル、価値観の従業員を受け入れることを容易とする環境を創造できたと考えています。

この変化は、ダイバーシティ&インクルージョンの環境を自然と作る第一歩であったと考えます。これまでは、同時刻、同じ場所に集まり、仕事をしていたことで、社風、文化を共有していましたが、その条件が全て崩れることとなります。一部、「だからテレワークはよくない」「アフターコロナは従来の働き方に戻そう」という声を聞いたりしますが、それは、せっかく進んだダイバーシティ&インクルージョンの環境の第一歩を元に戻すことになってしまいます。

では、これまで同じ志を持った社風、文化を共有しやすい者同士で勘やコツ、技を伝承し、持続可能な形でビジネスを構築してきた組織で、どのように変わればよいのでしょうか。

データサイエンスがダイバーシティ&インクルージョンを支援する

それを支援するものこそ、データサイエンスであると考えます。

まず重要なことは、勘やコツ、技は、さまざまな価値観を持つ人々が自然に交流する環境を目指すダイバーシティ&インクルージョンの考え方においては、暗黙的には理解されづらいということです。そうなると、勘やコツ、技はどうあるべきかという話になるのですが、明示的に可視化する必要があります。これまで明示的に可視化することが難しかったために勘やコツ、技となっていたかもしれませんが、データをしっかり取得し、分析することで、勘やコツ、技と同じ結果を示すことが可能です。

データサイエンスがダイバーシティ&インクルージョンを支援

例えば、営業職を考えてみると、成約するためには「そろそろお客さまのところに連絡をした方がよいかな」というタイミングを、これまではそれこそ勘やコツで導いていたかもしれません。これまでの成約実績のデータを用いて分析したり、AIを活用したりすることで、連絡するべきタイミングについて、アラートを出してくれるシステムを構築することが可能です。

従来の勘やコツ、技による進め方は、同じ志を持った社風、文化を共有しやすい者同士であれば、納得がいったかもしれません。しかし、同じバックグラウンドを共有していない者同士では、「なぜ?」という感情が高まってしまい、納得されないことが多いです。勘やコツ、技による進め方では、この「なぜ?」という素朴な疑問に答えづらいのです。

それに対して、データサイエンスで導き出すことにより、過去のデータに基づくエビデンスとして示すことが可能となります。ダイバーシティ&インクルージョンのさまざまな価値観を持つ人々が自然に交流する環境においては、データによるエビデンスは、志、社風、文化を超えた理解につながります。さらに、さまざまな価値観を突き合わせて、よりよい形にしようとする議論につながります。エビデンスがなければ、議論にもなりません。

データサイエンスによるエビデンスに基づくダイバーシティ&インクルージョン環境では、持続可能な形で新たな進歩が生まれると考えます。

このように考えていくとデータサイエンスのリテラシーは一部のデータサイエンティストのような専門家が身につけるだけでなく、全ての人が最低限身につける必須の知識、スキルではないかと考えます。

全ての人がデータサイエンスのリテラシーを身につけることにより、データ分析した結果をエビデンスとして、さまざまな人々と議論し、新たな解決策を生み出すということが自然にできるようになり、これまでと異なる組織の発展につながると考えます。勘やコツ、技が悪いと言っているわけではありません。これらをしっかりとデータ分析に基づくエビデンスによって説明をしていこうということです。

もっと言えば、科学はどのような性別、年齢、障がい、国籍などの外面的属性だけでなく、ライフスタイル、価値観などの内面的属性も含めてさまざまな人がいたとしても、共通に分かり合える唯一の領域であると言ってしまってもいいでしょう。データサイエンスは、そういう意味では非常に重要なキーワードでして、これまで科学できなかった領域、特にビジネス領域において科学を導入できるという意味合いが大きいです。データサイエンスは、多様な人々がつながり合い、協働していくために、必要な要素です。

ダイバーシティ&インクルージョンを真に実現する力の源は、データサイエンスだと言えるのです。

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中西 崇文
武蔵野大学 データサイエンス学部データサイエンス学科長 准教授ほか。1978年、三重県伊勢市生まれ。筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。経済産業省 「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員。専門はデータマイニング、感性情報処理など。著書に『Pythonハンズオンによるはじめての線形代数』(森北出版)がある。
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