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需要予測で小売店舗の収益力を底上げ、さらに進むデータ活用

2022年11月22日更新

小売業にとって来店者数を正確に見込むことによって図る需要予測は、さまざまな業務にかかわってくるため注力すべき取り組みの1つです。従来はPOSシステムにより蓄積されたデータをもとに分析し、予測していましたが、近年では機械学習による予測を含めた新たな手法が台頭しています。

自社に最適な方法で需要を予測するために、今回は近年注目されているAIや機械学習を用いたデータ活用について解説します。

経験に頼る需要予測が難しく

ビッグデータの定義と従来の情報流通統計との関係

出典:総務省情報通信国際戦略局情報通信経済室『情報流通・蓄積量の計測手法に係る調査研究報告書

近年はグローバル化、少子高齢化、コロナ禍など、さまざまな要因により人の流れを予測するのが難しくなっています。従来は、POSシステムに蓄積された構造化データやベテラン社員の経験・勘などに頼った予測が主流でした。

しかし、SNS、動画、IoTにおけるセンサデータなどが増加するにつれて、そうしたメディアが生み出す非構造化データを含めて分析しなくては、十分な精度を確保できなくなってきています。また分析・予測する工数も膨大になってしまいます。この作業工数は商品の種類に比例して大きくなるため、取り扱い品数が多い店舗の場合は来店者数などの予測に割く時間を確保しなければなりません。

また、精度が高い予測を実施するためには、過去の売上データ以外にも、天候やカレンダーなどの情報を絡めたデータ分析が必要です。特にここ数年は、新型コロナウイルス感染症の陽性者数に影響を受けるケースが多いという特徴がありました。

つまり、勘や経験に基づくやり方が通用しない時代が到来していると言えます。来店予測の精度が低いと、需要と供給のバランスが崩れてしまい、商品回転率が悪くなります。その結果、過剰在庫を抱えるなど負の連鎖が起きてしまいます。

AIを使った来店予測ソリューションの台頭

現在特に注目されているのは、AIを活用した需要予測です。POS(販売時点情報管理)から取得する売上データなどの構造化データ以外にも、人流データ、天気、気温、カレンダーなど多種多様なデータがビッグデータを構成し、それをAIで分析することで、より高い精度の需要予測が可能になってきているのです。

また、分析を自動化できるため、人の手で分析・予測するよりも、大幅な時間短縮が見込めます。このように高精度な需要予測により、次のようなさまざまなメリットが得られます。

AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸業)

出典:『AI導入ガイドブック』 需要予測(小売り、卸業)

過剰在庫・食品ロスの削減

精度が高い需要予測を実施すれば、仕入れの無駄を抑えられるため在庫水準を適正化できます。過剰在庫による保管コスト上昇や保管期間の長期化による商品の劣化といったリスクも低減できるのです。

例えば、スーパーマーケットの生鮮食品や惣菜売場などでAIを使った精度が高い予測を行えば、仕入れや調理の無駄を省けるため、材料の廃棄・食品ロスにつながるわけです。従来の経験・勘などによる需要予測は不確定要素が多く、予測の精度は低くなりやすくなります。もし予測が外れてしまえば大きな損失が生まれる可能性もゼロではありません。AIを使った予測であれば、根拠があるデータをもとに高い精度を実現できます。

業務の標準化

経験豊富な社員に来店予測を頼っている場合、担当者が異動・退職するとその仕組みは崩れてしまい適切に予測できなくなります。このように来店予測に関わる業務はデータだけでなく、経験も重要であり、属人化しやすいことも課題です。AIによるシステムにより精度が高い予測ができれば、属人化せずに業務の標準化を進められるでしょう。

人的リソースの有効活用

従来、来店者数を見積もり、全体の需要を予測するためには膨大な工数を要していました。AIによる予測を実施することで、その工数を削減できます。従来時間がかかっていた業務を自動化することで、人的リソースを有効活用できるでしょう。さらに、翌月の来店数などの予測も立てられるため、無駄のないシフトを作成できるのもメリットです。最適なシフトを組むことができ、作成時間の短縮も見込めます。

タイムセールなどのプロモーションの最適化

精度が高い需要予測ができれば、シフトの作成だけでなくタイムセールなどのプロモーションも効果的に実施できます。最適な時間にタイムセールを行うことで、さらに来店数を増やせるでしょう。

継続利用により精度が向上

機械学習により分析するソリューションの場合、もとになるデータが多ければ多いほど精度が高まります。そのため、需要予測AIを使い続ければ、利用時間とともに精度が高くなっていくため、さらなら効率化が図れます。

AI導入ガイドブック「製造業へのAI需要予測の導入」

出典:AI導入ガイドブック「製造業へのAI需要予測の導入」

来店予測を行えるソリューションの一例

ソフトバンクのAI「サキミル」

ソフトバンクが提供している来店予測AIの「サキミル」は、人流統計データや気象データを活用し、需要を予測します。気温・湿度・日射量・風速・降水量などの気象データをもとに、ソフトバンクと日本気象協会のデータサイエンティストが共同開発したAIアルゴリズムを利用することで、2週間先までの来店人数を予測できます。

さらに約3000万台の携帯端末の位置情報をもとにした人流データも活用できるため、過去の店舗データや実績に頼らない予測も実施できます。

コニカミノルタのAI「AIsee」

コニカミノルタの「AIsee」は、小売業界向けAIデータ予測プラットフォームです。今まで蓄積してきたデータを、AIに投入することで自動的に予測できるツールであり、専門的なスキルは必要ないとしています。

カレンダー・天候データなどの基礎データはあらかじめアップロードされているので、自社に保管しているデータだけ用意するだけで利用できます。データを蓄積する機能からダッシュボード機能など、必要なものは標準搭載されているため、個別の設計・調達も不要です。

DATAFLUCTのAI「Perswell」

DATAFLUCTの「Perswell」は、機械学習と外部データを活用した需要予測サービスです。店舗の在庫だけでなく、各種システムと連携することで、生産・物流などサプライチェーン全体の最適化も図れます。

従来の実績データのみを使った古典統計ではなく、最新の機械学習アルゴリズムを採用しており、高い予測精度を実現しています。需要予測のUIにも特徴があり、商材に応じて日次・週次などカレンダー表示で分かりやすく表示できます。

AIサービスの低価格で利用しやすく

AIやビッグデータを使ったデータ活用・来店予測には、規模が大きいシステムが不可欠であり、初期投資に大きなコストがかかるものが多いです。そのため、大手向けのソリューションが多く、中小企業への導入は進んでいませんでした。

しかし、近年では低価格で利用できるAIサービスが増えてきており、大手企業以外でも利用しやすくなっています。店舗の集客目的などの用途で手軽に利用できるでしょう。

Perswell 需要予測と最適在庫-分析結果-

DATAFLUCTのサプライチェーンマネジメントサービス「Perswell」

価格以外でも、高度な分析ツールがあっても使いこなせる人が少ないという課題が従来はありました。AIソリューションを適切に活用するためには、必要なデータを集め、分析、施策を考えられるデータサイエンティストなどの人員が必要だからです。自社に合わせてダッシュボードを構成する担当者も必要になるでしょう。

しかし、最近になり、Perswellのように専門知識を持つデータサイエンティストがいなくても利用できるAIツールも増えています。

売上増加とコスト削減を両立する

『AI導入ガイドブック』 需要予測(小売り、卸業)

出典:『AI導入ガイドブック』 需要予測(小売り、卸業)

経済産業省も『AI導入ガイドブック』で小売り、卸業分野での需要予測に特化した情報を発信しています。その中で、AI技術について「生産性改善だけでなく、従業員満足度の向上、技術継承促進と若手の育成、IT人材の採用など中小企業のさまざまな経営課題の解決へつながり得る」と説明。

このように需要予測AIが注目される最大の要因は、売上増加とコスト削減の両方を実現できる可能性があるからです。

高額な初期投資やAIを適切に扱える人員がいなくても、手軽に利用できるサービスが登場しています。自社の課題を解決し利益を大きくできる起爆剤になり得ます。

参考リンク
> Perswell|機械学習と外部データ活用で高度な自動需要予測を実現するサプライチェーンマネジメントサービス

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記助
IT業界に限らず、さまざまな分野に携わるマルチライター。
メタバースやAIなど、ホットな話題を提供します。
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